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野望の憑依者 伊東潤著

ページ繰らせる悪の魅力

(徳間書店・1650円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

過日、伊東潤は『巨鯨の海』で「オール読物」の第1回"高校生が選ぶ直木賞"を受賞した。虚心坦懐(たんかい)に作品を推す若い読者からのエールは、作者をして歓喜せしめたに違いない。文春もなかなか味をやるではないか。

その作者が新たな主人公に選んだのは高師直(こうのもろなお)――『太平記』には、伝統的な権威を軽視する新しい型の武士の典型として描かれているが、その実態は、南北朝動乱期を野心を喰らいながら駆け抜けた稀代(きだい)の悪党である。

ともかく、この作品自体が恐るべき悍馬(かんば)であり、しっかと手綱を握っていないとふり落とされかねない。が、全体の象徴たる冒頭、北条高時の屋敷での闘犬の場面から師直の悪の魅力に憑(つ)かれた読者は、決して手綱をゆるめることなく、ラストまで時を忘れてページを繰るだろう。

この欲に憑かれた人間たちの群像は、かつてIT業界に身を置き、「ホリエモンなんて可愛(かわい)いもんですよ」と作家に転じた作者の、現代の怪物どもを間近に見据えた果ての嘆息が生み出したものか。師直を恋に慄かせる塩冶判官の妻篠(しの)やメフィスト役の佐平次の造型(ぞうけい)は特に優れており、本年度のベストを狙う堂々の野心作だ。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2014年8月6日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

野望の憑依者 (文芸書)

著者:伊東 潤
出版:徳間書店
価格:1,782円(税込み)

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