高齢者が働くということ ケイトリン・リンチ著 米国の成功例を人類学者が分析

2014/7/9付
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高齢化の進行で70歳までの雇用の延長が論議され始めている中、従業員の半分が74歳以上、最高齢者は100歳近いという、一見するとおとぎ話のような職場(米国のヴァイタニードル社)の実態をドキュメントタッチで分析したのが本書だ。

(平野誠一訳、ダイヤモンド社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(平野誠一訳、ダイヤモンド社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

なぜ、こんな超高齢者を雇用して企業の経営が成り立つか。不思議に思えるが、本書を読めば経営者と高齢者の双方に十分なメリットがあるからだ、とわかる。

高齢者は会社に行けば話し相手や自分を必要とする人々に会える。社会から置き去りの孤独な高齢者にはならない。いくらかの収入もある。

経営者は高齢者をパートタイマーとして、最低賃金プラスアルファーの低賃金で雇用できる。医療給付など社会保険給付の会社側負担はない。高齢者はヴァイタ社以前に勤めていた会社で、その資格を獲得しているのがほとんどだからだ。つまりそろばん勘定が合う。

それでも視力や体力、敏捷(びんしょう)性の衰えなどから、若い健常者と比べた生産性の低さは争えないが、高齢者に適した工具や加工装置の開発や作業手順の変更などで、高齢者なりの能力の向上に工夫している。

見逃せないのは各種のメディアを通じた高齢者雇用職場の宣伝効果だ。欧米はじめ、日本でもテレビで報道されたが、欧米では再三にわたって、健気(けなげ)に社会的責任を果たす優良企業としてヴァイタ社が取り上げられている。取引先や地域住民には企業市民として好印象を与えているのは間違いない。現に、同社のホームページではメディアが与えた「世評」をしっかり誇示している。まさに情けは人のためならず、という気がする。

著者は気鋭の文化人類学者で、経済学者。実際に工場で働くなど5年にわたるフィールドワークの結果をまとめた。人生経験が豊富な高齢従業員は個人の利害や社業を超越した純粋さを持つが、若いオーナー社長のために稼ぎたい、など著者と交わす会話があぶりだす経営者と高齢者との紐帯(ちゅうたい)が印象深い。わが国でも高齢者雇用を促進する企業が少なく無いが、この辺りがポイントだろう。

ヴァイタ社は産業用や医療用の特殊針の製造を中心とし、製造部門の雇用規模は40人程度。同社の事業モデルが必ずしも一般大企業に適用できるとは限らない。しかし、生産性の向上を追求して限りない省力化、無人化を進める産業界にとって一服の清涼剤になる好リポートだ。

(専修大学教授 西岡 幸一)

[日本経済新聞朝刊2014年7月6日付]

高齢者が働くということ---従業員の2人に1人が74歳以上の成長企業が教える可能性

著者:ケイトリン・リンチ
出版:ダイヤモンド社
価格:2,592円(税込み)

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