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春秋

「ぼくの気持ちの中では、戦争はその後もずっと起こっているんです。自分にも周囲にも」。島尾敏雄がこう語るのを受けて、吉田満が言う。「あの戦争という、日本の歴史、日本人の悲劇、そういう中で大勢死んでいった仲間の、死んでいった意味を考えたい」――。

▼特攻隊長として出撃を待ちつつ敗戦を迎えた島尾と、戦艦大和の乗組員ながら九死に一生を得た吉田。いずれも凄絶な体験を持つ作家が、戦後30年を経て臨んだ対談での言葉だ。300万余の命を奪った「あの戦争」はすでにはるか遠景にあったはずだが、それでもなお自問を繰り返し、過去と向き合っていた2人である。

▼そんな時代からさらに倍以上の「戦後」が過ぎて、戦争と平和をめぐる思念と言葉はいささか軽い。5月15日ときのう、集団的自衛権の行使容認についての安倍首相の記者会見ににじんでいたのは論よりむしろ情だろう。この1カ月半にわたる与党協議は、落としどころを探る字句修正に終始してことの本質を曖昧にした。

▼「戦地に国民を送るのか」「戦争ができる国にするな」。反対の訴えもまた冷静な議論の糧とはならず、身をすくめた人も多かったに違いない。どちらもリアリティーを欠いたまま、声は高く、かの作家2人の語り合いとは対照的である。斎藤史の短歌をひとつ。「濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は泥土か夜明けか知らぬ」

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