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春秋

4年前のサッカー・ワールドカップ(W杯)を語ったもののなかで、今も強烈に記憶に残る一節がある。「スペイン―ドイツの準決勝で、スペインのプジョルがヘディングシュートを決めた瞬間、なぜか涙があふれました」。語り手は元東大総長の蓮實重彦さんである。

▼じつは同じ瞬間、ひいきでもない当方の目にも涙があふれた。それを人にも話していた。後になって蓮實さんのインタビュー(朝日新聞)を読み、不思議な体験をした人はずいぶんいたのだと確信したものだ。スペインはこの1点で決勝に進み、初優勝した。チームを精神的に支えていたのが、プジョルという選手である。

▼今回、スペインは連敗して1次リーグ敗退が決まった。プジョルは引退し、もういない。闘将とよくいうが、猛将がふさわしい。優男ふうが目立つスペイン選手のなかにあって、ひとり仲間を叱りつけて鼓舞する獣性が目に焼きついている。ドイツ戦のシュートも、自分より背の高い味方すら押しのけて放ったものだった。

▼「サッカーには、選手や観客の国籍とは無縁に、見る者すべてを感動させてくれる瞬間がある」。涙の理由を蓮實さんはこう説いていた。スペインにもう一度を期待できないのは残念だが、その瞬間にいつ出くわすかもしれないのがW杯の楽しさでもある。ただし国籍不問。それを忘れていると、不思議な体験をし損なう。

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