2019年3月21日(木)

強欲の帝国 チャールズ・ファーガソン著 必然的に起きた金融危機の背景

2014/6/16付
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世界を震撼(しんかん)させたリーマン・ショックは、米国での住宅バブルの崩壊を契機にたまたま発生したのか、あるいは起こるべくして起こったのか。仮に起こるべくして起こったとした場合、何がその原動力として作用したのか。また、そうした力は米国社会にどのような影響を及ぼしたのだろうか。

(藤井清美訳、早川書房・2700円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(藤井清美訳、早川書房・2700円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は、議会報告書や民事訴訟での証拠資料を丹念に読み解き、この問題に対する著者なりの解答を提示するものである。結論は「起こるべくして起こった」であり、ウォール街のあくなき利益の追求が原動力として作用していたと主張する。ウォール街とは債券の引き受けやトレーディングに特化した投資銀行および大手商業銀行という米国を代表する金融機関のことをいい、その強欲が米国社会を疲弊させたと断じている。

著者の見立てによると、ウォール街は議会や学界に働きかけて、機動的に利益を追求できる環境を作り上げた。金融先物取引に規制の網をかけようとする動きを議会に働きかけて潰したほか、投資銀行への自己資本規制も実質的に骨抜きにした。そうしたなか、強欲なまでに利益を追求する裏側で投資銀行などでは価格変動リスクが過剰なまでに積み上がった。このリスクが住宅バブル崩壊とともに一挙に顕現し、世界的な規模で金融危機が勃発したのである。

また、利益追求が成功するなか、ウォール街では年収数千万ドルにのぼる超富裕層も生まれ、米国の富の多くを独占してきた。富裕層と貧困層の格差がさらに拡大するとともに、アメリカンドリームの実現確率が押し下げられるなど、米国は普通の人々にとって厳しい社会になった。加えて、優秀な人材はウォール街を目指すため、製造業などの先行きが危ぶまれる。

では、どうすれば金融危機の再発を防止し、米国社会を健全化させられるのだろうか。この点、著者の見方は厳しい。報酬規制の強化といった小手先の対応では不十分であり、不正を働いた関係者を刑事訴追することや、ウォール街と議会との癒着を断つことなどが喫緊の課題であると主張する。

しかし、リーマン・ショックで関係者が刑事訴追されたことはないほか、癒着の解消にも手が付いていない。いずれ若いリーダーがそうした問題を解決するだろうという楽観的な期待で本書は閉じられる。この点、やや不満が残るが、米国社会のありようを考えるうえでの好著である。

(同志社大学教授 鹿野 嘉昭)

[日本経済新聞朝刊2014年6月15日付]

強欲の帝国: ウォール街に乗っ取られたアメリカ

著者:チャールズ・ファーガソン, Charles Ferguson
出版:早川書房
価格:2,916円(税込み)

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