原発事故と放射線のリスク学 中西準子著 除染・帰還論議に現実的提言

2014/6/11付
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原発「推進」でも「反対」でもない専門家による安全性に関する解説書。これだけでこの著書の「珍重さ」がわかっていただけるだろうか。書店に並ぶほとんどの「原発」本は、放射線について「安全」か「危険」の色分けがしっかりとできている。これが著者のいう「リスクはゼロにはならない」、「リスク管理には必ずトレードオフ(一つのリスクを減少させようとすると別のリスクが増大する)」があるという事実を直視させなかったのではないか。本書はまさに、この重要な事実を読者が直視するための書である。

(日本評論社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(日本評論社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

著者はみずから「放射線の専門家ではない」と宣言しつつ、「化学物質のリスク評価、リスク管理」を専門としてきた研究者として、福島事故以降放射線リスクの問題に取り組んできた。その3年間の成果をまとめた本書は、福島の除染、復興、そして避難民の帰還といった、我が国が抱える苦悩を解決するうえで、どうしても避けては通れない「放射線リスク」に関する重要な分析・提言書である。

放射線のリスクを概説した第1章も必読だが、特に読みごたえがあるのが「原発事故のリスク」と題した第2章である。このなかで、これまでタブーとされてきた「除染目標」にしっかり踏み込み、自らの判断・根拠に基づいて「15年間の被ばく線量が100ミリシーベルトを超えないことを条件に年5ミリシーベルトが適切」と提言。その場合でも「リスクゼロとは言わないこと」と、これまでの政府や一部専門家の説明にしっかり釘(くぎ)をさすところが著者らしい。「社会が受容できるリスク目標」を丁寧にわかりやすく説明したこの根拠ある提言は、賛否両論があるだろうが、これまでの除染・帰還政策議論に全く欠けていたものであり、ぜひ関係者間で議論のたたき台として参考にしてほしい。

この他、本書の特徴として、専門家らとの対談が含まれており、中でも除染の経済学についての飯田泰之氏との議論は、除染と賠償を考えるうえで興味深い示唆を与えている。

私は、原子力委員を退任するときに、「合理性」だけではなく、政策にも「人間性」が必要だと訴えた。本書はまさにその「合理性」を追求したものといえるが、「あとがき」のところで「(原爆被爆という)歴史的な経緯」に触れた著者の一言に、「人間性」を垣間見たような気がした。まさにこのような「リスク学」が今我々に必要なのではないか。ぜひ一読をお奨(すす)めする。

(長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長 鈴木 達治郎)

[日本経済新聞朝刊2014年6月8日付]

原発事故と放射線のリスク学

著者:中西準子
出版:日本評論社
価格:1,944円(税込み)

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