政府事故調の資料を公開せよ
政府は福島第1原子力発電所の事故の原因や経過に関わる資料を最大限公表すべきだ。悲惨な事故から学び二度と繰り返さないため、政府や東京電力が知り得た情報をできる限り開示し、多角的な検証を重ねることが重要だ。原子力への信頼回復にも欠かせない。
政府の事故調査・検証委員会が吉田昌郎・福島第1原発所長(当時)を聴取した「聴取結果書」の内容が報道された。政府は吉田氏が開示を望まないとした「上申書」を理由に公開を拒んでいる。
2011年6月に発足した政府事故調は約1年間にわたる調査でおよそ770人を聴取したが、報告書に載せた以外の内容は明らかにしていない。事故調の会合も非公開が多く、吉田氏や菅直人元首相ら少数を除けば、だれを聴取したかも開示していない。
政府事故調は閣議決定に基づき設置され、東電などの民間の関係者を聴取する法的な権限を持たなかった。このため事故調は責任は追及せず、真相究明を最優先して任意で聞き取った。要請を受けた関係者には非公開を前提に話した人が多いとみられる。
経緯は理解できるが、それでも吉田氏を含む関係者の聴取結果を可能な限り公開する手立てを政府は真剣に検討すべきだろう。
あの時、事故現場や東電本店などで対応した人々の証言は後世に残すべき歴史的な資料で、教訓をくみ取る必要があるからだ。
また、全容解明からほど遠かった政府事故調の報告書を補い、事故のより詳細な全体像を知るのにも役立つ。
事故調の畑村洋太郎委員長(当時)らは調査の限界を率直に認め、調査の継続を強く求めていた。事故から3年がたち、原子炉の損傷場所などもわかってきた。膨大な証言録と新たにわかった事実を突き合わせる意義は大きい。
事故はいまだ収束せず、真相解明も終わってはいない。日本の経験を世界の原子力安全に生かすうえでも、事実を見極め再発を防ぐ努力を惜しんではいけない。