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人類5万年 文明の興亡(上・下) イアン・モリス著 「東アジアの時代」になる理由

2014/5/21付
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人類の全史を描こうとする試みは少なくないが、いかにもラフで、まじめな歴史学とはみられないものも少なくない。しかし、考古学者の手になる本書は、かなり緻密で興味深い。「なぜ西洋が世界を支配しているのか」という副題にみるとおり、西洋文明の優越した近代が、いまどこに向かおうとしているのか、という観点が強く出ているのが特徴である。

(北川知子訳、筑摩書房・各3600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(北川知子訳、筑摩書房・各3600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

18世紀までの中国が西ヨーロッパと対等どころか、それ以上に高度に発展した市場経済をもっていたことは、いまでは、本書でも、その用語が援用されているアメリカの歴史家、K・ポメランツなど多くの歴史家が認めている。東西の「分岐」の時期については議論があるものの、いずれにせよ、18世紀末以降の近代は、確実に、全体として「ヨーロッパの支配」の時代となったうえ、さらに、いまではその近代西洋による地球支配も、中国を中心とする東アジアの時代に取って代わられつつある。とすれば、中国を中心とする「新しい世界」は、近代ヨーロッパが発展させた市場経済の延長――「北京のアダム・スミス」――なのか、それとも、それとは別の何か新しい原理のもとに動く経済社会なのか。

この問いに答えるために著者は、国内総生産(GDP)のような単純な経済指標ではなく、国連の「人間開発指数」――個々の社会の自己実現の可能性を指数化したもの――を展開して、「社会発展指数」を計測しようとする。著者の「社会発展指数」は、エネルギー獲得量、都市化の度合い、情報技術、戦争遂行能力の4つの要素で構成されている。この指数を使って、近代がなぜヨーロッパの時代となったのか、いまなぜ、東アジアの時代となりつつあるのかを説明できるというのである。その結果、欧米の経済社会は、2150年には東アジアに抜かれると予想する。

他方、「5万年」という超長期の歴史を対象としたために、本書は、資本主義の分析ではなくなってしまっている一面もある。歴史展開の論理が体制に内在的なものではなく、結局、地理的・気候的条件に依存した説明になっているのである。繁栄した社会はその繁栄のゆえに滅びるという歴史循環論になっていることも、やや不満ではある。

とはいえ、経済指標だけに頼りがちで、東アジアの勃興をも、「西洋への同化」としかみない従来の歴史観を、修正する可能性のみえる一書である。

(仏教大学特任教授 川北 稔)

[日本経済新聞朝刊2014年5月18日付]

人類5万年 文明の興亡(上): なせ西洋が世界を支配しているのか (単行本)

著者:イアン モリス
出版:筑摩書房
価格:3,888円(税込み)

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