2019年9月20日(金)

復興するハイチ ポール・ファーマー著 災害で露呈する社会の「病原」

2014/4/28付
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私が米ハーバード大へ留学した1990年当時、学内で話題の院生が2人いた。一人はバラク・オバマ氏。もう一人が著者だった。23歳で訪れた西半球最貧国・ハイチの窮状に衝撃を受け、人類学と医学の両方の博士課程に在学中の87年に同級生ジム・ヨン・キム(現・世界銀行総裁)らとNPO「パートナーズ・イン・ヘルス(PIH)」を創設、世界的に活動を展開しつつあった。

(岩田健太郎訳、みすず書房・4300円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(岩田健太郎訳、みすず書房・4300円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

同大で教鞭(きょうべん)をとり始めてからも、1年の半分はハイチやルワンダで結核やエイズなど感染症の無償医療活動に従事、収入のほとんどをPIHに寄付、自身は本部の地下に寝泊まりしていた。その献身的な姿は「21世紀のシュヴァイツァー」と称され、やがて同大で最高位の教授職ユニバーシティ・プロフェッサーに就任、ノーベル平和賞への期待も高まっている。

2010年1月、ハイチで大地震が発生。主たるインフラはほぼ壊滅し、コレラも蔓延(まんえん)、30万人以上が絶命するなか、私はずっと著者のことを考えていた。国連特使(ビル・クリントン米元大統領)代理に任命されたことは知っていたが、彼はハイチで何を想い、如何(いか)に行動しているのか。

本書はその彼による当時の回想録である。災害が露呈する社会の矛盾、国際社会による支援の舞台裏、被災支援専門家への不信、クリントンとの関係、私生活をめぐる葛藤などが臨場感たっぷりに綴(つづ)られている。

含蓄に富む指摘も多い。例えば、ハイチは世界有数の「NGO共和国」だが、著者は必ずしも肯定的には捉えていない。民間アクターを調整する政府の施行能力が脆弱なため、それぞれがバラバラに活動を展開、政府への不信に拍車をかける結果になっているからだ。

そして、その根底には、ラテンアメリカ最初の独立国でありながら、長年、フランスや米国に支配されてきた構造的な「病原」が横たわっているという。その点で、例えば、クリントンが自らの大統領時代の政策(補助金に支えられた米農産物がハイチの農業事情を悪化させた点など)を公に謝罪している姿を評価している。

著者はジェノサイドを伴う凄惨な内戦後、政府主導で着実に復興の途にあるルワンダをモデルに挙げている。ハイチの公的セクターの機能拡充を後押しすべく、民間や国際社会は何をどう援助すべきなのか。ハイチのみならず、途上国に対する主要支援国の一つである日本にとっても大きな課題である。

(慶応大学教授 渡辺 靖)

[日本経済新聞朝刊2014年4月27日付]

復興するハイチ ―― 震災から、そして貧困から 医師たちの闘いの記録2010-11

著者:ポール・ファーマー
出版:みすず書房
価格:4,644円(税込み)

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