2019年7月18日(木)

危機とサバイバル ジャック・アタリ著 生き残りのための「積極的戦略」提唱

2014/4/21付
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本書は、欧州を代表する知識人の一人であるジャック・アタリが近未来の世界で起こるであろう危機を予想し、それらへの対処の姿勢を述べたものである。本書で述べられている今後10年に予想される危機の内容はそれほど目新しいものではない。

(林昌宏訳、作品社・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(林昌宏訳、作品社・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

いわく、国家の枠組みを超えたグローバル資本主義の活動を制御しがたいことから、経済危機が再び起こる。石油の生産量はピークを超え、深刻なエネルギー危機が生じる。世界人口の爆発的な増加に伴い、水資源や食糧の確保が困難になり、地球環境にも過大な負荷がかかってエコロジー危機になる。世界的規模での伝染病の流行や戦争が発生する、などである。

これらの危機が一部でも現実化すれば、人類の生存すら脅かされかねない。そうした警告は、既に繰り返し様々な機会に発せられてきたにもかかわらず、我々の多くは「危機の見通しに麻痺(まひ)してしまい」、アタリのいう「消極的戦略」をとってきた。すなわち、「なりゆきに任せる」だけの態度をとってきた。

しかし、そうした態度でいる限りサバイバルはかなわない。生き残るための「積極的戦略」を選び取らねばならないと、本書は主張する。そうしたサバイバル戦略の基礎になる〈7つの原則〉を示したところに、本書の独自性があると評価できる。

これまでの人類のサバイバルの経験の中には、表面的な相違を超えた共通の原則が見いだされると、アタリは述べる。第1〈自己の尊重〉、第2〈緊張感〉、第3〈共感力〉、第4〈レジリエンス(強靱(きょうじん)さ)〉、第5〈独創性〉、第6〈ユビキタス(あらゆる状況に適応できる能力)〉、そして第7〈革命的な思考力〉である。

7原則は円環構造を持ち、革命的な思考力を発揮して世界に対して反旗を翻すのは自己の尊重のためだという意味で、最後の原則は、最初の原則に連環していく。原則を実践し、その適用性を絶えず検証することで、個人も、企業も、国家も、そして人類もサバイバルできる確率を高められると主張する。

率直にいって、このあたりの主張に関しては、壮大な「自己啓発本」のようだとの印象を受けた。しかし、とりわけわが国は、財政危機をはじめとした直面する難題に対して「奇跡的な解決手段が登場するのを待つばかりの態度」を続けてきた。それゆえ、消極的戦略からの脱却を図ることが急務である日本の現状では、本書による啓発の意義は否定できないものだといえる。

(慶応大学教授 池尾 和人)

[日本経済新聞朝刊2014年4月20日付]

危機とサバイバル――21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉

著者:ジャック・アタリ
出版:作品社
価格:2,376円(税込み)

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