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信頼と裏切りの社会 ブルース・シュナイアー著

情報化社会での人間関係を考察

ほんのすこし前まで、オンラインでクレジットカードや銀行の暗証番号といったデータをやりとりすることに抵抗があった。いまではさほど気にしなくなったが、もちろんそうしたデータを盗み見されるリスクは消えていない。それにもかかわらずネットで決済情報をやりとりできるのは、私たちがネットを信頼しているからだ。

(山形浩生訳、NTT出版・4200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

この「信頼」という現象をめぐる壮大な一般理論を模索したのが本書だ。進化生物学から心理学、経済学、哲学まで引用して、信頼が生まれるのはどうしてなのかという問いに向き合い、現代においてどのようにすれば信頼が機能するのかを考察する著者の姿勢は、ときに専門性の中に閉じこもりがちな学者の立場からは頭の下がる思いがする。

確かに、壮大すぎて大風呂敷を広げた感は否めない。信頼に足るネットオークションの仕組みを作りたいと考える人にとって、動物の捕食行動についての知識はあまりに遠回りなものに思われるかもしれない。だが本書を読み通してみれば、そこで提示されたモデルが、人間社会でも十分に意味のあるものだということが分かる。

ところで、コンピューター・セキュリティの専門家である著者がなぜこのような本を書いたのか。その理由は私たちの社会の複雑性の増大にある。情報化やグローバル化が進む中、私たちは背景のよくわからない相手を信頼しなければ社会生活を営むことができなくなっている。強固なセキュリティシステムを構築しても、信頼がなければどんなサービスも利用されないばかりか、安全性への要求だけが過剰に高まっていくだろう。

ときに「安心社会」と呼ばれるように、日本では人格的な慣れ親しみを前提とした関係性が好まれがちだ。SNSでも関係を広げるというよりは親しい間柄の密なコミュニケーションが目立つ。だが著者のいうように裏切りが一定数発生し、またそこにはときに「いい裏切り」もあるのが人間社会なのだとしたら、慣れ親しみによらない信頼を社会の中に埋め込むために何が必要かを考えていくことが求められるのではないか。

(社会学者 鈴木謙介)

[日本経済新聞朝刊2014年3月30日付]

信頼と裏切りの社会

著者:ブルース・シュナイアー
出版:エヌティティ出版
価格:4,410円(税込み)

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