春秋

2014/3/25付
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太平洋戦争末期の日銀総裁、渋沢敬三は多才な人だった。日本資本主義の父とされる栄一を祖父に経済界で活躍するかたわら、標本や民具を集めて屋根裏博物館を設けた。民俗、社会、人類、考古といった人文科学の連携を提唱し、私財を投じて数多くの人材も育んだ。

▼魚名研究にも没頭した。蔵相時代には、生物学者だった昭和天皇と魚を巡り長く歓談した。あとで天皇が側近に「渋沢は何を本職にしている大臣かね」とたずねたという(佐野真一「旅する巨人」)。学術研究への評価は高い。が、日銀総裁としては軍の言いなり、お札を無制限に刷り物価高騰を招いたと批判されてきた。

▼いまの黒田東彦総裁の学識も幅広い。経済学は英国仕込み、難解な哲学や数学にも詳しく、大学で教えた経験も豊富だ。文楽ファンで歌舞伎にも造詣が深い。学者肌は渋沢に通じるかもしれない。違うのは世間の声だ。この1年の大胆な金融緩和が企業や消費者の気持ちを変え、デフレ脱却へ道筋をつけたとの評価もある。

▼もちろん歴史の審判はこれから。異次元緩和も間違うと副作用を生む。安定成長に向けてカジ取りに集中してほしい。それにしても経済運営の相方である財務相の影が薄い。財政再建と成長戦略の両立という難題を前に、立ちすくんでいるようにみえる。財務省に取り込まれ「言いなり」に動いてもらっても、困るけれど。

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