革命と反動の図像学 小倉孝誠著 メディアを軸に論じる仏19世紀

2014/3/25付
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たまたまであるが、私は一九一四年前後について調べていた。古い時代と新しい時代の過渡期と思われるからである。この本は、一九一四年以前の時代、〈十九世紀〉をあつかっており、とても参考になり、興味深かった。

(白水社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(白水社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

序章では、一九一四年以後に、レオン・ドーデが古い時代をふりかえって、「愚かな十九世紀」といったことが紹介されている。どんなふうにおろかだったのか? その愚かさは過去のものとなったのだろうか?

この本は、十九世紀のさまざまな問題を、メディアを軸に論じている。つまり、なにがあったのかだけではなく、それがいかに、どのように伝えられたかを明らかにしようとする。十九世紀のメディアの中心は新聞と小説である。この本の意図は序章で次のようにまとめられている。

「近代フランスを特徴づけるさまざまな文化の装置、感性の装置、そして政治の装置がどのように機能し、それがどのような表象を生み出したのかを探ろうとする意図である。文化と感性と政治は、それぞれがまったく独立して展開するのではなく、相互に結びついてひとつの時代の集合心性、あるいは社会的想像力を形成するのだから。」

この本で私が好きなのは、フロベールの小説『感情教育』を読み解きながら十九世紀像を語っていくところだった。純粋な文学テキストとして読まれてきた小説が、歴史的風景として読み直され、新しい面白さが発見されてゆく。

先日、古書店の主人と話していて、フランス文学がまったく売れないこと、大学から仏文科がなくなっていくこと、などが話題になった。この本を読みながら、そのことがちらりと頭をかすめた。フランス文学、そしてフランス文化は、読み直されるべきではないだろうか。そこにはまだまだかくされた魅力があり、しかもそれこそが、私たちの現代をつくっているものだからだ。

この本は、フロベールの『感情教育』やウジェーヌ・シューの『パリの秘密』をもう一度読んでみたいという気分に誘ってくれる。それらの小説の中で、パリの風景を歩いてみたい。

(著述家 海野弘)

[日本経済新聞朝刊2014年3月23日付]

革命と反動の図像学: 一八四八年、メディアと風景

著者:小倉 孝誠
出版:白水社
価格:2,520円(税込み)

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