2019年3月19日(火)

春秋

2014/3/18付
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歌人の斎藤茂吉はたいへんなカンシャク持ちで、いつ雷が落ちるかと家族はひやひやしていたらしい。ところが孫のことになると違った。2階に寝ていて、孫たちが下の廊下をばたばた駆け回る音がするのも「何とも言へぬ可愛い感じである」などと随筆に書いている。

▼およそカンに障りそうな足音まで「可愛い」とはほほ笑ましい限りだが、孫への愛情とはそういうものだろう。北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの娘と対面かなった祖父母の感激も、だから察するにあまりある。しかもわが子はいまも行方が知れぬ。その面影を、孫の顔立ちや挙措に感じては涙がこみ上げたに違いない。

▼モンゴルのウランバートルに双方が出向いての、極秘裏の面会だったという。横田さん夫妻の孫を思う気持ちが実を結んだのは大いに喜んでいいが、第三国の首都までキム・ウンギョンさんを送り出した北朝鮮はそんなに素直でも人道的でもあるまい。こんどの対面劇にこめた専制国家の思惑をとくと見定めるべきだろう。

▼これで拉致問題解決の糸口が見つかったわけではないし、そもそも血も凍る粛清を平然とやってのける陰惨な王朝だ。きっとウンギョンさんも厳重な監視下にあろう。それでも祖母の早紀江さんは別れぎわに「希望ですよ」と語りかけたという。被害者みんなの足音を聞ける日が来ると信ずる心に、しっかり寄り添いたい。

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