2018年7月17日(火)

専門超える知を集め想定外なくせ(大震災3年 日本は変われるか)

2014/3/11付
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 東日本大震災で甚大な被害をもたらした大津波と原子力発電所の事故。警告する専門家はいたが、学界や行政、電力会社が受け止めず「想定外」にしてしまった。

 震災後、巨大地震の被害想定が見直され、原発の安全対策が強化された。だが大津波や、原発が電源を失う事故など「起きたこと」の再発防止策にとどまる。

 科学者や行政が専門の垣根を越え、何が想定外かを絶えず洗い出し、危機に強い社会を築きたい。

死角多い南海巨大地震

 地震対策では、西日本の太平洋沿岸で起きる南海トラフ巨大地震について、国が死者最大32万人、被害額220兆円超との想定をまとめた。津波避難タワーの整備や学校の高台移転などにかかる費用を国が助成する特別措置法もつくられ、対策が動き出した。

 「最悪を想定し、防災の出発点にする」という発想自体は正しいだろう。だが巨大な地震や津波だけが「最悪」とは限らない。南海トラフ地震は起こり方によっては予期せぬ大被害が生じる、と警鐘を鳴らす研究者がいる。

 ひとつが紀伊半島沖と四国沖の震源が時をおいて別々に動く「時間差発生」だ。ともに死者1千人を超えた1944年の東南海地震から46年の南海地震まで2年あった。安政期の南海地震も同時ではなく東海地震の32時間後だった。

 同じことがまた起きれば、どうなるか。最初の地震が起きた後、次の地震がいつになるかは、いまの地震学では予測できない。住民は避難所から戻れず、交通機関の停止や店舗の休業が続き、社会や経済がマヒする恐れがある。

 列島の災害史をひもとけば、大地震が火山噴火や洪水と重なったことも珍しくない。地震のときに避難所になる体育館が火山灰で崩れる心配はないか。新幹線の降灰対策は万全か。首都直下地震が複合災害になれば、政府が示した「死者最大2万3千人」の想定を超えると心配する専門家は多い。

 想定外をなくすとは、こうした課題を丹念に洗い出すことだ。これまでの防災は地震学など限られた分野の専門家が担ってきた。防災は地域経済や災害心理などに深くかかわる。幅広い分野の知を集めなければならない。

 原発の安全強化も道半ばだ。原子力規制委員会が定めた新しい規制基準は津波のほか火災やテロ、航空機の墜落も想定した。第2制御室や排気設備などを電力会社に義務づけ、再稼働の可否を判断する基準としては妥当だろう。

 ただ設備面の対策など各論が先行し、めざすべき安全目標がみえない。福島原発事故では多くの住民がいまなお帰宅できず、放射能の健康への影響をめぐり不安も強い。住民の生命や健康を守るため、被曝(ひばく)リスクの低減などを盛り込んだ目標が必要だ。

 そこでは他の分野の専門家や地元自治体、住民もまじえて幅広い議論が欠かせない。英国やフランスのように、原発ごとに利害関係者が集まり、安全対策を点検する仕組みが日本にもあってよい。

複線思考で優先順位を

 想定外の事態は経済や金融でも起きやすくなっている。「100年に一度の金融危機」とされた2008年のリーマン危機は、金融の専門家しか理解できない複雑な取引が膨らんでいたことが背景にあった。専門家はリスク管理の能力を過信し、監督当局も危機の影響を十分に予測していなかった。

 いまも世界の金融システムには不透明さが残る。銀行を通さない取引が膨らみ、一部の新興国は通貨危機の恐れに直面している。情報技術を駆使した市場取引が広がり、株価の変動性も増した。

 様々な専門家がリスクがどこにあるかを多角的に検証し、中央銀行などが機動的に危機の芽を摘む必要がある。

 防災や危機管理では費用対効果の視点も忘れてはならない。

 千年に一度の大津波に備えて防潮堤をかさ上げするのは現実的ではない。むしろ情報を迅速に伝えて人命を守るなどソフト面の対策がカギを握る。

 重要なのは、まれに起きる巨大災害と頻度の高い災害を分けて複線的に対策を練り、優先順位をつけて取り組むことだ。それには専門家だけの判断でなく、社会の合意が欠かせない。

 震災からきょうで3年。次の災害への備えに真剣に踏み出すことが、犠牲者への鎮魂となる。

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