この改革で中国は安定成長できるのか
中国で年に1度の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕し、李克強首相が施政方針演説を行った。今年の実質成長率の目標を前年と同じ7.5%前後とし、構造改革によって安定成長を保つ姿勢を鮮明にした。
景気の現状について首相は下振れ圧力を指摘した。ただ、労働人口が減り始めるなど中国経済の体質は大きく変わりつつあり、リーマン・ショック直後のような強烈な景気対策は不動産バブルや設備過剰、インフレといった副作用を生みやすくなっている。
短期的な景気対策に頼らないで安定成長を維持するエンジンとして、首相は構造改革の必要性を繰り返し強調した。
政権を握る共産党は昨年秋の会議で、2020年をメドとした改革の青写真を打ち出していた。政府は今回、その一部を具体化してみせたといえる。
たとえば、公表されない財源や支出が多く不動産バブルの温床ともなってきた地方財政の、透明性向上だ。首相は「各レベルの政府の予算と決算はすべて公開しなければならない」と言明した。
「影の銀行」の問題で関心を集める金融の分野では、金利の自由化推進と同時に預金保険制度の整備を表明した。ただ「影の銀行」問題の打開策そのものは具体的でなく、不安の払拭には遠い。
人民元レートは「双方向への変動幅を拡大する」方針を示した。当局はこのところ人民元の対ドルレートを押し下げる介入を実施してきた。投機筋をけん制する狙いとの見方が強いが、そうした姿勢を改めて明確にした印象だ。
2014年の予算案では、国防費に前年実績比12.2%増の8082億3千万元(約13兆4400億円)を計上した。4年連続の2ケタ増で、総額は過去最高だ。
懸念を覚えざるを得ない。国防費の細目の公開など、透明性を高め周辺国の不安を和らげる努力を中国政府に求めたい。日本など周辺国は中国軍の動向に一層の注意を払う必要がある。
全人代の冒頭、出席者は1日夜に雲南省昆明市で起きた無差別テロ事件の犠牲者を哀悼した。事件の背景には深刻な民族対立があるとみられている。
だが肝心の民族・宗教政策について首相は「共産党の政策の貫徹」を繰り返すにとどまった。経済発展の前提である社会の安定を保つための改革は、心もとない。