乱丸(上・下) 宮本昌孝著
悲劇のヒーローの成長物語

私は「問題小説」(現「読楽」)に第1回が掲載されてから、本篇(ほんぺん)が単行本になるのを一日千秋の思いで待っていた。
いわば、この作品は結末の分かっている物語である。しかしながら、恐らく乱丸の運命の象徴となる聖獣"氷渡(ひわた)り銀狐(ぎんぎつね)"との出会いから、ストーリーがどう転がっていくのか。これを毎月コマ切れで読まされてしまうと、次が一刻もはやく知りたくて、えいっとばかりに本になってからにしようと断腸の思いで待つこと3年。期待に違(たが)わぬ傑作となった。
乱丸は信長の近習となって、本能寺の変で18歳で死ぬのだから、これ全篇、乱丸の成長を描く青春小説ともいえる。だが、上巻は陽、下巻は陰である。「天下布武」のために信長に仕える乱丸から、魔王信長と一心同体になっていく乱丸へと、作者の筆は様々な趣向を凝らして描いていく。
趣向といえば、バリヤノが光秀に謀叛(むほん)を唆すあいだに、時代ものでは誰知らぬ者とていないある人物が存在していることなど、語り尽くせぬほど。
悲劇のヒーローを描きつつも、作品が爽やかさに貫かれているのは、自然描写の的確さにも依(よ)ろう。今年の必読本と断言できる。
★★★★★
(文芸評論家 縄田一男)
[日本経済新聞夕刊2014年2月19日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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