神様のホテル ビクトリア・スウィート著 救貧院から問い直す医療の意味

2014/2/19付
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 なんと心洗われるノンフィクションなのだろうか。

(田内志文・大美賀馨訳、毎日新聞社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
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(田内志文・大美賀馨訳、毎日新聞社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 著者のビクトリア・スウィートは、アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコにある「ラグナ・ホンダ病院」の元医師である。1867年に救貧院として開設された同病院には、ホームレスや貧困のため病院に行けない人々、治療を投げ出された患者たちが集う。社会的弱者の最後の砦(とりで)のようなこのケア施設を、人は「神様のホテル」と呼ぶ。

 同病院に20年間以上にわたって勤務した著者は、その中で遭遇した患者たち、個性的な医師たちとの交流を愛しむように語っていく。まるで心に折り重なった大切な思い出を、一枚、一枚と丁寧にめくりあげていくように。その一つひとつのエピソードが胸に響くのは、彼女が医師として勤めた時期が、専門分化と効率化の荒波の中で医療機関が変貌を遂げていった期間と重なるからだろう。

 もともとアメリカにはほぼ全ての州に同じような施設があったが、時代の流れとともに閉鎖され、当時すでにラグナ・ホンダが最後の救貧院となっていたという。医療が〈技から専門職へ、そして商品へと変貌〉していく流れは、同病院にも否応(いやおう)なくやってきた。

 コンサルタントが病院を訪れ、報告書をまとめる。古い施設の建て替え、適材適所やコストカットを大義名分としたスタッフの解雇、治療の効率化――。だが、個々の部署の効率化が個々の患者の治療にとっての不効率に繋がることもあれば、医師と患者の交流が断たれることで、治るはずの疾患が見落とされることもある。同病院は最後の砦であったが故に、現代医療の功罪が剥(む)き出しの形で立ち現れる場所となっていくのだ。

 「治る」とはどのようなことなのか、人は医療によってどのように救われ得るのか。

 現代医療の仕組みからこぼれ落ちそうになる人々との交流から、著者が直面し続けた「医療とは何か」という根源的な問い。本書はその答えを切実に模索し、悪戦苦闘した一人の医師が、どのように医療者としての成熟を迎えていったかをめぐる物語でもある。

(ノンフィクション作家 稲泉連)

[日本経済新聞朝刊2014年2月16日付]

神様のホテル 「奇跡の病院」で過ごした20年間

著者:ビクトリア・スウィート
出版:毎日新聞社
価格:2,520円(税込み)

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