歌舞伎 型の真髄 渡辺保著 見巧者が縦横に描く舞台の瞬間

2014/2/17付
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歌舞伎は官能を刺激する芸術である。その頂点で観衆が得るものは全身を痺(しび)れさせるような陶酔感だ。

(KADOKAWA・2600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

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セリフと仕草(しぐさ)の流れのピークで役者たちの動きが静止し、ぴたりと見得(みえ)が決まった時、鉛を溶かしたように熱いものが背筋を走り抜ける。不思議なことには、この特別な感覚は歌舞伎の舞台以外では味わうことができない。

著者渡辺保氏は、あまたの演劇史論・役者の伝記・舞台評論など歌舞伎関係のライターとして定評のある人物であるが、最大の特質は磨きのかかった見巧者(みごうしゃ)(芸を見抜く名人)であることだ。

そんな観劇体験豊かな著者が瞼(まぶた)の裏に焼き付けている役者の舞台姿の「型」を二十よりすぐって縦横に再現した世界が本書である。『義経千本桜』の平知盛・狐(きつね)忠信や『絵本太功記』の十段目、通称「太十」の武智光秀(明智光秀)など歌舞伎ファンにはたまらない役柄がずらりと並ぶ。

ドラマが進行して、いよいよクライマックスにさしかかる時、舞台には、筋立ての解決とはまた別個の次元で、ある緊張の高まりとその瞬時の解放に伴う独特の快感が訪れる。それはなぜか。その秘密は、舞台で演じられる劇が特定の人間的葛藤を解くとともに、それを表現する役者の演技が肉体を駆使して一種超人間的な界域を示そうとする瞬間であることに関係があるのではないか。

歌舞伎の「型」は、たんに役者の動作を一瞬停止させて見せるだけの「ポーズ」ではない。今、役者個人の名を冠されて「だれそれ」型といわれる芸風も、複数の役者による代々の工夫を経て洗練され、厳しい観衆の反応で篩(ふるい)にかけられた伝統の産物である。

セリフ回しの間の取り方、筋肉への力の籠(こ)め方の強弱、他の役者たちとの位置関係、着付けの衣裳(いしょう)の色彩の配合……等々の幾多の組み合わせの試行錯誤の末に完成されるのが「型」なのだ。著者は、生前の中村歌右衛門が演じた『曽我対面』の大磯の虎を回想して「さながら動く『美術館』」だったと書き、そこに役者の「型」の真髄(しんずい)を見ている。

(文芸評論家 野口武彦)

[日本経済新聞朝刊2014年2月16日付]

歌舞伎 型の真髄 (単行本)

著者:渡辺 保
出版:KADOKAWA/角川学芸出版
価格:2,730円(税込み)

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