それでも金融はすばらしい ロバート・J・シラー著 より良い社会実現への役割を模索

2014/2/3付
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世界的な金融危機を経験し、金融ファイナンスへの批判が高まっている。短期的な利益の追求に走りがちな最近の金融市場は、バブルを引き起こし、その崩壊は経済活動を大混乱に巻き込んだ。本書の著者も、このような金融市場に警鐘を鳴らし、行き過ぎた資産価格の変動の問題点を指摘してきた。その貢献から、昨年、ノーベル経済学賞も受賞した。ただ、本書で展開する議論の多くは、そのような著者から想像されるものとは大きく異なる。むしろ今日の金融取引に対する行き過ぎた批判の広がりに、しばしば危惧さえ示す。

(山形浩生・守岡桜訳、東洋経済新報社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(山形浩生・守岡桜訳、東洋経済新報社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

その背後にある考え方は、自由な市場経済が最適な資源配分を実現する上で有用というきわめて経済学者的な発想だ。特に、第1部では、自由な金融市場の発展が中長期的な経済発展に重要で、場合によっては高額報酬の最高経営責任者や投資マネージャーらも必要となることを指摘する。本書を読む限り、著者を反市場主義を標榜する異端の研究者と考えるのは全くの誤りだとわかる。

ただ、著者が自由な金融市場を無批判に礼賛しているわけではない。市場メカニズムは不完全なものであり、しばしば過大な負債や投機バブルなどを伴う誤った帰結を経済活動にもたらす。特に、市場参加者の行動は移り気なもので、心理的要因によって左右されることが少なくない。第2部でも、「認知的不協和」など人間の心理的要因を考慮した分析や慈善に基づく非営利活動の分析が金融の分野でも必要とし、人間の動機・衝動の多様性を考慮した金融システムを構築することの重要性が説かれる。

本書で展開される議論は、全体としてはややまとまりに欠け、市場主義者と反市場主義者のいずれにとっても煮え切らない印象を与えるかもしれない。ただ、自由競争には弊害があると同時に、資源配分を効率的にする面もある。本書の原題は「金融ファイナンスと良い社会」。本書が、より良い社会の実現に向けて金融の役割がどうあるべきかを、「資本主義を改良し、民主化する」という観点から模索した意欲作であることだけは間違いない。

(東京大学教授 福田慎一)

[日本経済新聞朝刊2014年2月2日付]

それでも金融はすばらしい: 人類最強の発明で世界の難問を解く。

著者:ロバート・J. シラー
出版:東洋経済新報社
価格:2,940円(税込み)

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