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日本写真史(上・下) 鳥原学著

幕末から現在までの流れを概観

ここ20年ほどの間に、日本写真史の枠組みは大きく変化してきた。一つには、写真部門を持つギャラリーや美術館が増えたことで、これまで知られていなかった多くの写真家たちの仕事に新たな光があてられたということがある。さらに、1990年代以降のデジタル化の進行によって、写真表現そのものが根本的に変質してしまったことも見逃せない。

(中公新書・上780円、下760円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

その日本写真史の流れを、幕末・明治期から「3.11」以後まで概観する本書の刊行は、その意味で待ち望まれていたものといえる。しかも、読みやすい新書判なので、写真関係者だけでなく一般の読者にも手にとりやすい形になっているのがありがたい。

ただ一口に写真史といっても、その範囲は多岐にわたっている。写真を使って目の前の現実の姿を把握し、伝達しようとする写真家たちの営みが中心になることは当然だが、カメラ、レンズ、感光材料などのメカニズムの発達も重要なポイントだ。さらに、写真家を取りまく社会環境の変化も大きな意味を持つ。たとえば、敗戦後にカメラが食料輸出の「見返り物資」に指定され、進駐軍兵士の需要が高まったことが、日本のカメラメーカーの復興に大きく寄与したのはその一例だ。やがて優秀な日本製のカメラを使用する写真家たちが、戦後の現実を直視する質の高い作品を発表していくのだ。

それゆえ、写真史の記述には高度なバランス感覚が要求される。多次元的な要素をすべて詰め込むのは、到底不可能だからだ。時には大胆に、ある時代や特定の傾向をカットする勇気も必要になる。本書では、それがかなりうまくいっているのではないかと思う。もともと「戦後写真史」として構想されたものなので、戦前の記述はやや薄いが、その分、高度経済成長期の「雑誌メディアの発達と写真表現との関連性」にはページが割かれている。

むろん、本書は日本写真史に関してこれから書かれるべき多くの本の端緒と位置づけられるものだろう。さまざまな角度から、この豊かなジャンルを見直していく気運は既に充分に熟しているからだ。

(写真評論家 飯沢耕太郎)

[日本経済新聞朝刊2014年1月26日付]

日本写真史 上 - 幕末維新から高度成長期まで (中公新書)

著者:鳥原 学
出版:中央公論新社
価格:819円(税込み)

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