巨大災害のリスク・コミュニケーション 矢守克也著 災害情報を共有する関係性を重視

2013/12/16付
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 災害時の行動は、過去の経験や学習で得られたストック(記憶)の情報と、耳や目などから入ってくる警報や指示などのフロー(知覚)の情報に、支配される。人間は、それらの災害に関わる情報を正しく処理し理解することによって、迅速な避難などの適切な対応を引き出すことができる。ところが、最近の災害を見ても明らかなように、情報内容が豊富になり、情報伝達が迅速になっているにも拘(かかわ)らず、逃げ遅れなどの不適切な対応が後を絶たない。災害情報の充実や進化が、その負の効用として「情報待ち」や「行政依存」といった悪しき傾向を生みだしているからである。

(ミネルヴァ書房・3500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
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(ミネルヴァ書房・3500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 本書は、この悪しき傾向を生むメカニズムを原理にまで遡って解き明かし、現在の災害情報理論とそこから導き出されている情報伝達実践の誤りを、的確に指摘している。災害情報の持つプラスとマイナスという「パラドックス」に真正面から向き合い、それをパラドックス的な理論展開で解き明かした好書であるといえよう。

 本書は、情報をいかに正しく理解するかというプロセスにポイントをおいている。そのために、情報伝達の内容よりも情報伝達の関係性に着目し、情報を一方的に伝えるという関係性ではなく共有し共創するという関係性を重視することの大切さを、強調している。さらに、その理解するあるいは共創するというプロセスにおいて、情報の持つ両義性というか、相矛盾する表のメッセージと裏のメッセージの間で生じる葛藤や対立を、能動的な姿勢や協働的な関係で克服することの必要性を説いている。

 一見、理論的に極めて難解だと思われる命題を、豊富な事例と明快な論理展開で解きほぐしており、災害情報のあり方を素直に納得させてくれる。「天災は忘れた頃にやって来る」という格言や東北地方に伝えられてきた「津波てんでんこ」という言葉についての鋭い考察からも、リスクコミュニケーションのあり方を学ぶことができる。それだけに、防災関係者だけでなく全ての人に一読を勧めたい。

(兵庫県立大学防災教育センター長 室崎益輝)

[日本経済新聞朝刊2013年12月15日付]

巨大災害のリスク・コミュニケーション: 災害情報の新しいかたち

著者:矢守 克也
出版:ミネルヴァ書房
価格:3,675円(税込み)

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