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健康食品・サプリメント市場 「働く女性」がけん引

 「昨日、健康食品売り場に行ったら、目当ての品が売り切れだったよ」。神田のご隠居、古石鉄之介の話に探偵、深津明日香が反応した。「やっぱり、お年寄りが増えているからなのかな」。早速、調査に乗り出した。

最初に市場調査のインテージ(東京都千代田区)に向かった。同社は、日常生活で不足しがちな栄養素を補う粒やカプセル、粉末、液体、ゼリー状などの食品やサプリメントの売れ行きを調べている。2012年度の健康食品・サプリメントの市場規模は約1兆4700億円。購入額を年齢別にみると、男女ともに60代がトップで70代が続いた。

潜在市場規模は現在の倍以上

業界推計では、市場規模はここ数年、年3~5%程度ずつ拡大している。インテージによると、「これから購入したい」人を加えた「潜在市場規模」は現在の2倍以上。同社コンサルタントの見山公一さん(38)は「メーカーは複数の成分を入れた製品を発売するなど様々な工夫をしています。人口の高齢化が進む中で、市場規模はさらに拡大するでしょう」と予測する。

「にらんだ通り高齢化が大きな原因なのね」。販売の現場を見るため、次に、化粧品や健康食品・サプリメントを取り扱うファンケルの直営店「銀座スクエア」(東京都中央区)に足を運んだ。

明日香の目に飛び込んできたのは、午前11時の開店と同時に店内に突き進む女性たち。「シニア層も多いけど、若い女性の姿も目立つわ」。首をかしげる明日香に、同社ヘルスカンパニー商品企画部の渡辺理子さん(37)が説明した。美容と健康を気にする女性向け商品の売り上げは同社のサプリメント全体の約15%。例えば、ダイエット効果をうたう「カロリミット」は35~44歳の女性が主なターゲット。働く女性を中心に販売が好調という。

次の訪問先は大塚製薬東京本部(東京都港区)。同社製品部の渡辺裕吾さん(41)も女性市場に注目している、と話した。11月に発売したサプリメント「ビタメルト」は水なしで口の中でとけ、ビタミンを手早く吸収できる。30代の働く女性向けに開発した商品だ。「全国のコンビニエンスストアで販売し、新たな健康習慣を提案していきます」

「女性の方が男性より健康に気を配る傾向があります」。事務所に戻った明日香に、池田陽子さんが声をかけてきた。「薬膳アテンダント」を名乗る池田さんは、カルチャースクールなどで薬膳料理を使った健康法を伝授している。「特に熱心なのは働く女性。私自身もそうですが、忙しい女性が求めるのは、わかりやすさと手軽さです」

ここで再び、インテージの見山さんに連絡を取った。「健康食品・サプリメントは、健康志向が強いシニアと働く女性がともに関心を寄せる商品なので、伸びているのです」。12年度に健康食品・サプリメントを購入した人数は60代女性、40代女性、30代女性の順に多かった。「30~40代の女性は1人当たりの購入額がシニアよりは少ないですが、伸び盛りの購買層です」

「乳酸菌やバランス栄養食品など広い意味での健康食品でも女性向けが伸びています」。ダノンジャパン・マーケティング部の斎藤朋子さん(39)も話に加わった。11年秋にシニア向けに発売したカルシウム不足を補うヨーグルト「ダノン デンシア」。シニアには普及したとみて今年からドリンクタイプも加え、働く女性にPRすると年間出荷量が前年に比べ50%増えた。

「健康に気を使う男性だっているのになぜ働く男性向け商品は目立たないのかな」。納得できない所長が質問した。

そこで、「女性の消費」を研究する三菱総合研究所主任研究員の片岡敏彦さん(46)に助け舟を求めた。片岡さんの説明では男性の雇用者数は1997年をピークに減少する一方、女性は増加傾向。給与所得の総額に占める女性の割合はすでに25%超。安倍晋三内閣は女性の活用を目標に掲げており、働く女性の数、総所得は今後も増えそうだ。

片岡さんが注目するのは所得から消費に回す割合を示す消費性向。働く独身の男女ではどの所得水準でも女性が男性より高い。「メーカーが女性を重視するのは当然です」

「流行現象を起こしやすいのも女性です」。カルビー・マーケティング本部の網干弓子さん(39)が補足した。カルビーのシリアル食品「フルグラ」はこの1~2年で人気に火が付き、今年の売り上げは前年比で約4割増。30~50代の女性がよく購入している。「ヨーグルトなど他の食材との相性が良く、短時間でアレンジできる点が受けています。おしゃれで健康的な朝食の定番となりました」

「女性が消費の『決定権』を持つ家庭が多いというアンケート調査の結果も見たことがあるわ。女性の力は大きいのね」と納得した明日香。

職場のストレス消費促す

「女性がけん引する市場は食品以外にも広がっています」。磁気で血行を促進する「ピップエレキバン」で知られるピップ執行役員の水書邦之さん(45)も女性パワーを実感している一人。靴による足への負担に悩む女性向けに、はくだけで足指を広げる機能があるソックス「くつろぎ時間のスリムウォーク 足指セラピー」を12年秋に発売。1年余りで出荷が100万足を突破した。「足先が痛い、血行が悪くなるといった女性の声を商品開発に反映させました。女性は新商品への反応が早いですね」

次に向かったのは女性専用のフィットネスクラブ、カーブスジャパン(東京都港区)。1回30分の手軽なコースが受け、05年の開業後、全国の店舗数約1400、会員数は約60万人に達した。30~40代の会員の7割弱は働く女性。「女性の通いやすさを意識した立地やメニューが会員増につながっています」と同社執行役員の斎藤光さん(40)。

第一生命経済研究所主任研究員の宮木由貴子さん(41)にも話を聞くと、「シニア向けのイメージが強いマッサージ機などの健康器具も働く女性の間で人気です」と教えてくれた。「ただ、働く女性は運動、健康管理や美容の現状に十分、満足していないとの調査結果もあります」

経済学のモデルでは、消費者は自分の効用(満足度)が最大になる水準まで消費を増やす。「健康や美容に不満や不安があるから、もっと満足度を高めようとして消費を増やしているのかも。商品を買う前に効能や機能を見極める必要もありそうね」。明日香は表情を引き締めた。

「働く女性は処遇や人間関係などでストレスを感じ、心と体の健康を意識せざるを得ないのです」と注意を喚起するのはヘッドハンティング会社、サーチファーム・ジャパン(東京都千代田区)の吉永操さん。吉永さんは女性管理職などを対象とするヘッドハンターとして多くの女性と接している。「女性にとって必ずしも働きやすい環境ではない日本の現実が、女性の消費が増える一因なのです」

「これを飲んでダイエットしてください」。明日香と所長夫人の円子からサプリメントを手渡された所長は「やっぱり消費の決定権を握っているのは女性か」とポツリ。

(編集委員 前田裕之)

[日経プラスワン2013年12月14日付]

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