国立劇場12月公演 庶民的な「知られざる忠臣蔵」
歌舞伎座が2カ月続きで「仮名手本忠臣蔵」を上演するのを横目に、国立劇場が忠臣蔵の外伝劇を並べて見せる。題して「知られざる忠臣蔵」。「仮名手本」だけが忠臣蔵ではない。先行作、後続作、新歌舞伎、さらに映画やテレビドラマまで忠臣蔵は一大山脈として今なお活火山であり続けている。「仮名手本」がフルコースなら、こちらは庶民の味の一品料理の趣だ。
「主税と右衛門七(えもしち)」は現幸四郎・吉右衛門兄弟が10代だった昔、シナリオライターの成澤昌茂が2人のために書いた新作。討ち入り前夜、10代の義士2人が真情を吐露し合う小品だ。右衛門七の歌昇、主税の隼人とも役の把握は適切だが、もっと激しく演じていい。右衛門七を慕う娘・お美津の米吉の伸びやかな素質を買う。2人を見守る大石の歌六が情愛深く舞台を締める。
「弥作の鎌腹」は外伝劇中の古典として大歌舞伎・小芝居を問わず昭和30年代までは上演レパートリーに入っていた。吉右衛門にとっては祖父・三代目歌六、養父・初代吉右衛門以来のいわば家の芸。伝承の上からも取り組まなければならない作だ。芸に愛嬌(あいきょう)のある芝居上手というDNAは見事に当代にも受け継がれていて、正直者の百姓が義士である弟の立場を守るために鎌で腹を切るという、演じようによっては陰惨な劇を、庶民的な哀感と巧まざる共感をもって見せる。芝雀の女房、又五郎の弟・千崎弥五郎、橘三郎の代官ほか役々に吉右衛門の息の掛かった役者をそろえたチームワークが、久々の上演の難しさを克服している。
「忠臣蔵形容画合(すがたのえあわせ)」は黙阿弥作の「仮名手本」レビュー版。程良いアレンジで初心者は初心者、通は通なりに楽しめるところがミソ。26日まで。
(演劇評論家 上村 以和於)