ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む マシュー・グッドマン著 記録に挑んだ女性たちの素顔

2013/12/11付
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 お金の心配はいらないから、できるだけ短期間で、一人で世界一周してきてくれないか……そんな仕事が舞い込めば、迷わず飛びつくだろう。100年以上前の話であると知らなければ……。

(金原瑞人・井上里訳、柏書房・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
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(金原瑞人・井上里訳、柏書房・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 ジュール・ヴェルヌが1873年に『八十日間世界一周』を発表した16年後、20代のアメリカ人女性記者、2人が、主人公、フィリアス・フォッグの記録に挑んだ。

 企画を立案し、東回りの旅をしたのは、北部に生まれ、精神科病院への潜入取材などを果敢にこなした野心家のネリー・ブライ。ネリーの出発から8時間30分後、西回りの旅を始めたのが、南部生まれで文学に通じ、雑誌の書評担当だったお嬢様、エリザベス・ビズランド。性格は対照的だが、どちらも女性が不公平な立場に追いやられていたアメリカで、男性社会に飛び込み、筆一本で自らの生きる道を切り開いた女性だ。

 蒸気船、蒸気機関車といった、当時最先端の技術を駆使した交通機関を利用し、80日という記録の更新を目標に、2人の一人旅は続く。通信手段は電報のみ。悪天候で船が欠航しても、大雪で鉄道が止まっても2人は旅を諦めない。やがてアメリカ全土の期待を背負ったレースに変わっていく。

 19世紀の話なのに、全く色褪(あ)せて感じないのは、物語の随所で時代背景や人々の様子が丁寧に描かれているためだろう。

 船の1等客室で豪華な旅をするイギリス人やアメリカ人と対照的に、3等の不衛生で劣悪な環境のなか、簡素な食事で過ごす中国人たち、世界中で特権意識を抱くイギリス人と、それに反感を覚えるアメリカ人……支配する者、される者、さまざまな対比が混在し、複雑に絡み合う19世紀の世界の縮図が見事に表現されている。

 予定通りにいかない旅に不安を抱き、新しい出会いへの期待に胸を躍らせる。19世紀、たった一人で、国の期待を背負って記録に挑んだ女性たちの素顔は、現代を生きる私たちと、何ら変わりはない。

 旅の勝敗は決まるが、物語はそこで終わらない。彼女たちが送るその後の人生に「旅」の本当の意味を垣間見たような気がした。

(ノンフィクションライター 城戸久枝)

[日本経済新聞朝刊2013年12月8日付]

ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む―4万5千キロを競ったふたりの女性記者

著者:マシュー グッドマン
出版:柏書房
価格:2,940円(税込み)

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