途上国の旅 開発政策のナラティブ 浅沼信爾・小浜裕久著 11カ国の多様な発展の経緯を分析

2013/12/2付
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 おそらくはフロイトの精神分析学に淵源をもつのであろうが、ナラティブ・セラピーという心理療法がある。症者のトラウマ(心的外傷)の記憶を症者と医師との精神分析的な対話によって探り、トラウマが症者を苦しめている因果の関係に「物語」性をもった解釈を与えて症状からの治癒を図る、そういう療法のことである。

(勁草書房・3700円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
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(勁草書房・3700円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 著者たちが求めているのは、途上国発展の抽象的な一般理論ではない。新古典派成長理論や内生的成長論などの正当性は十分に認めながらも、発展の初期条件の著しく異なる途上国個々の開発戦略の具体的な処方箋は、理論からは生まれてこない。多様な途上国の開発経験をそれぞれ分析的に描き出す――これを著者たちは「カントリー・ナラティブ」と呼ぶ――ことによって、成長の真因に迫ることができるのではないかと考えて本書を執筆している。ナラティブの対象となった途上国は、日本をも含む11カ国に及ぶ。いずれも二人の著者が足繁(しげ)く踏査し、開発調査や戦略研究に携わった国ばかりである。記述に安定感があるのはそのためであろう。

 ナラティブをどう読みこんでこれにいかなる解釈を与えるかは、読者の判断に任せるといったスタイルの著作である。11の物語から得られる結論が意外にあっさりしているのも、そのためであろう。しかし、著者があえて強調しているのは、開発戦略の方向を指し示す政治指導グループ、ならびに指導者に対するテクノクラートの強い政治的コミットメントのありようである。

 経済成長に市場が必要であることはいうまでもないが、市場が成長するためには、市場を効果的に展開させるための制度的インフラを要する。制度を機能的なものたらしめるには、制度を構築する政府の高い能力が不可欠である。政府の能力は、政治指導者が発する戦略を国民の共感と支持を得られるような形に設計し、これを公正に施行するテクノクラートが存在するか否かにかかわる。途上国のエリートとの接点が多い著者たちの得た結論らしい。どうしても書きこんでほしいのは中国とインドのナラティブである。

(拓殖大学総長 渡辺利夫)

[日本経済新聞朝刊2013年12月1日付]

途上国の旅 開発政策のナラティブ

著者:浅沼 信爾, 小浜 裕久
出版:勁草書房
価格:3,885円(税込み)

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