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「発見 しずおか」 浜松ワインセラー

かつて遠州地方と長野の南信地方を鉄道でつなぐ構想があったのをご存じだろうか。計画は頓挫し、浜松市天竜区の山中には工事途中で日の目を見なかった無人のトンネルが多数残る。全長1170メートルの人工穴。もはや無用の長物になるかと思いきや、意外な使い道が残されていた。「天然のワインセラー」だ。

販売棚の奥に、ワインを寝かせる箱が約200メートルにわたって並ぶ(浜松市)

天竜川のダム湖沿い、道の駅の脇の坂を登ると、途切れた陸橋の奥に、大きな穴とそれをふさぐ扉が見えてきた。道路脇には「浜松ワインセラー」の小さな看板。少し汗ばむくらい暖かい日、トンネルの前に立つと、暗闇からひんやりした風が吹きつける。

薄暗い穴の中、入り口付近には販売用のワインの商品棚が並ぶ。その奥の壁に沿って約200メートル、ワインが入った木箱がずらり。約250人が預けた数万本のワインが真っ暗な洞穴で静かに時を重ね、ゆっくりと風味を熟成させている。

現在の天竜浜名湖線・天竜二俣駅とJR飯田線・中部天竜駅を結ぶ計画だった幻の鉄道「佐久間線」。高度経済成長期の1967年に建設が始まったが、旧国鉄の経営が悪化する中、80年に建設を断念した。

地元そば店の店主で町おこし活動にも関わる山本六二郎さん(64)が放置された穴を初めて訪れたのは5年前のこと。入ってすぐ「これはワインセラーしかない!」とひらめいた。欧州で長く暮らし、輸入に携わった経験もあるワイン好きだからこそのアイデアだ。

トンネル内は外気と遮断され、年間を通じてセ氏15~16度に保たれている。夏は涼しく冬は暖かい。湿度は70~80%とほぼ一定だ。ワインの天敵である紫外線も振動もゼロ。図らずもワインを寝かせるには最適の環境だった。

浜松市からトンネルを借り、週末限定で営業を始めた。瓶が約100本入る1箱を預けて、料金は保険料込みで年1万2900円。空調が要らない天然倉庫は、頑丈につくった都会の倉庫に比べて格安だ。

過疎化が進む地域を活性化するためにも「外部から人が来ることが重要」と山本さん。実際、顧客の6割は首都圏を中心とした県外からだ。

東京都の会社員、大橋英敏さん(45)はオープン直後に入り口付近のスペースを確保した。「料金が安いし、距離もそれほど気にならない」。お気に入りのワインと1年ぶりの再会を果たし、ご満悦の様子。約20本を持ち帰り、代わりに持ってきたワインボトルを丁寧に紙で包んで箱に収めた。

山本さんに言わせると、トンネルにワインを寝かせるのは「月千円の大人の遊び」だそうだ。確かに少年時代、自分たちしか知らない秘密基地に宝物を隠した時のような、ワクワクした感情を思い出した。

浜松ワインセラー(浜松市天竜区大川相津トンネル) 営業時間は土日祝日の正午~午後5時。年契約でワインを預かるほか、一部静岡産茶葉の熟成も手掛ける。ソムリエの選んだワイン約150種類も販売する。天竜浜名湖線の天竜二俣駅から車で約10分、道の駅「花桃の里」のそば。

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