三秒間の死角(上・下) A・ルースルンド、B・ヘルストレム著
ポスト冷戦期の一断面呈示

潜入捜査ものの警察小説。といっても、その型から大きくはみ出す。流行の北欧ミステリの優しい基調とも無縁だ。
合成ドラッグの蔓延(まんえん)、国境を股にかける犯罪組織、服役者をリクルートして潜入捜査官に取りこむ警察システム、刑務所までびっしりと整備されたドラッグ市場。などの要素のうち、後の2点は、従来の警察小説ではお目にかかったことがない。これは、スウェーデン独自か。
主人公の潜入捜査官は、刑務所の麻薬販売ルートの独占をめざす組織の密命を受け(組織を壊滅させる証拠を固めるため)、服役囚となる。だが警察の上層部は彼の切り捨てをはかる。彼のほうもそれを予測して、周到な対策をこうじていた…。
後半は主に、「完全脱獄」の物語だ。服役に先立つ3日間。彼が用意する脱獄手段の小道具の一つひとつのディテールが凄(すご)い。チューリップの花に麻薬を隠し、図書館の本に長さ約5センチのミニガンを分解して隠す。タイトルの意味が判明する瞬間はじつにスリリングだ。
ポスト冷戦期のヨーロッパの一断面を、犯罪をとおして鮮烈に呈示(ていじ)する。ヘレンハルメ美穂訳。
★★★★
(評論家 野崎六助)
[日本経済新聞夕刊2013年11月27日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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