春秋
闇に埋もれた事実を暴くノンフィクション作家・猪瀬直樹がこの席にいたら、果たしてどんな質問をぶつけたのか。そんな想像をしつつ、きのうの猪瀬直樹東京都知事の記者会見を見ていた。知事選前に猪瀬さんに徳洲会側から5千万円わたっていたことの釈明である。
▼行きつ戻りつした説明はこうだ。選挙に出ることを決めた昨年11月、徳田虎雄氏に挨拶に行った。初対面である。しばらくすると徳田氏側から5千万円を貸そうという申し出があった。「厚意で貸してくれるなら」と借用書を書いて個人名で受け取った。そのまま妻の貸金庫に保管した。すぐにもう不要だと分かった……。
▼初めて会って5千万円? などなど、筋の通らぬところはいくらもあるのだが、わけても不思議なのは、「選挙のことを知らなかったし、これから何があるか分からないので借りたが、選挙とまったく関係ない金だった」という部分である。投票日の1カ月ほど前の大金だ。よもや本人もこれで世が納得するとは思うまい。
▼猪瀬さんは駆け出しライターだった30代のころ、仲間と飲んでどんなに座が盛り上がっても午後10時には店を出て仕事場に戻った。自分と向き合うためだという。「酒の席を適当に切り上げる習慣は今も変わっていない」と最近も書いている。二人の猪瀬直樹が向き合って、知事は作家を丸めこむことができるのだろうか。