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メモリースケープ 小泉恭子著

音楽と記憶の関係追う

ここ十数年来、CDの売り上げ減少と若い世代の音楽離れが懸念されてきているが、30代以上では音楽に接する時間はむしろ増えているのだそうだ(NHK放送文化研究所、国民生活時間調査『日本人の生活時間・2005』)。

だが「路上で目につくのは最新機器を手に音楽を聴く若者」ばかりで中高年の姿は見えない。オヤジたちは一体どこで音楽を聴いているのか。

本書は、音楽の消費者として注目されてこなかった中高年たちが、いま音楽を聴く場所を訪ねたフィールドワークだ。具体的には、うたごえバス、フォーク酒場、コミュニティ・ラジオ、サントラ愛好者の集い、という四つの「場所」が取り上げられている。それぞれ、現場復帰した昭和のバスガール「OGガイド」と共に東京を観光しつつ懐メロを歌うはとバスツアー、ギターを手にした客が吉田拓郎を筆頭に70年代フォークを弾き語りする酒場、66歳のDJがアナログレコードをかけるコミュニティ放送局の人気番組、81年に解散したサントラ愛好者サークルのOB会で、いずれも部外者は気づきにくい「場所」だ。歌われ聴かれるのはむろん、彼らが若かりし頃に親しんだ音楽である。

青春時代に聴いた音楽から結局人は一生離れられないのだとはよく言われる。過去に聴いた音楽が「あの頃」を呼び起こすのはなぜか、「あの頃」の音楽を同世代の人々と分かち合うことはどのような意味を持つのか。著者の興味は「音楽」と「記憶」の関係を社会学的に捉えることにあり、タイトルにも採られている「メモリースケープ(記憶の地景)」という概念を持ち込む。集合的記憶と個人的記憶が織りなすダイナミズムを描出し、個人的記憶をノスタルジアに回収されるのに任せるのではなく、現在へと解き放つために。

本書はメモリースケープ理論化への布石ということだが、この概念自体が、専門家以外には馴染(なじ)みのない概念を前提や対立項としているため、かえって話がややこしくなっている。そもそも理論化する必要や意味があるのかという疑問が終始頭を離れなかった。個々の事例がオーラルヒストリーとして貴重なだけに一層。

(評論家 栗原裕一郎)

[日本経済新聞朝刊2013年11月17日付]

メモリースケープ―― 「あの頃」を呼び起こす音楽

著者:小泉 恭子
出版:みすず書房
価格:3,150円(税込み)

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