2018年12月17日(月)

〈脳と文明〉の暗号 マーク・チャンギージー著 言語と音楽をめぐる仮説を提示

2013/11/6付
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なぜ私たちは言語を操るか。なぜ私たちのあいだに音楽が生まれたか。単純な疑問だが、ヒトと類人猿を隔てる根幹に問いかけている。これらに対する明確な回答はまだ提示されていない。それらの疑問に対し、大胆な仮説を提示し、検証していくのが本書である。

(中山宥訳、講談社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(中山宥訳、講談社・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

その仮説とは、言語も音楽も自然界をお手本として生まれたというもの。言語(本書では話し言葉)は、物体の「破裂音」「摩擦音」「共鳴音」から発生したという。音楽のもとになったのは、人間の足音を中心とした「動作音」だという。あまりに大胆すぎて、驚く人もいるだろう。実際、評者も冒頭では少なからず当惑した。

しかし、この冒険的な自説を、著者は既にある科学的なエビデンスや、自らの研究を通して、丁寧に検証していく。例えば、著者は音楽と人間の動作音の関連を調べる対象として、クラシック音楽の1万にのぼる旋律を記録した事典を用意した。足音の特徴を調べ、これらの膨大な旋律の拍子や音の間隔などと照らし合わせていくという地道な作業をして、仮説の説得力を増していく。言語に関しては、人間が言語として発する音と、さまざまなタイプの衝突音(硬い物体との衝突や柔らかい物体との衝突など)を比較して検証していく。その入念さには頭が下がる。

そして、人間の脳が文化に合わせて発達したのではなく、言語や音楽などの文化のほうが、脳に合わせて変化していったという主張は、文字が物体を模倣しているとした著者の前著『ひとの目、驚異の進化』と共通する。ヒトは言語や音楽を手に入れたが、類人猿は持たない。このヒトと類人猿の違いに対する疑問に対して、本書では明確な答えが提出されていない。今後の研究の進展が楽しみだ。

本書を読みながら、ウィーンでコンサートを聴いたときのことを思い出した。曲の終わりに拍手をするが、その会場では同時に足をドンドンと踏み鳴らす聴衆がほとんどで驚いた。どうやら欧州では普通らしい。足音を中心とする動作音から生まれた音楽という説が正しければ、足音を起源にする音楽に対し、足音で賛辞を送るなんて素晴らしいではないか。

(サイエンスライター 内田麻理香)

[日本経済新聞朝刊2013年11月3日付]

<脳と文明>の暗号 言語・音楽・サルからヒトへ (KS一般書)

著者:マーク・チャンギージー
出版:講談社
価格:2,520円(税込み)

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