「農の進化 中部発」 もっと安く (下)

2013/11/2付
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リキッドフィードを備蓄するタンク(愛知県豊川市のJAひまわりの倉庫)

実入り3000円前後

うどん生地、ノンフライ麺、小麦の洗い粉、パンの耳……。愛知県豊川市のJAひまわり東部営農センターの倉庫には、大きなタンクの横に地元の食品工場から出る「余り物」が入った袋が積んである。加工して豚に与えるおかゆ状のエサ「リキッドフィード」を作るためだ。

豚1頭を販売した養豚農家の現金収入は約3万円。うち2万円はトウモロコシなど輸入配合飼料で消え、ほかの経費を除くと実入りは3000円前後まで減る。危機感を強めた同JAが試作を重ねて開発したのがリキッドフィードだ。

余り物といっても残飯ではない。ジャガイモのむき皮など食品の加工過程で出る材料を安く購入して独自に混合することで、配合飼料に比べ2割ほど安いエサ作りに成功。昨年4月から管内3戸の農家に供給し始めた。「人間の食べ物を食べているから、臭みはなく肉質も落ちない」。同JA畜産課の三石達夫さんは力を込める。

これまで捨てられてきたものを有効に活用することで、新たな活力につなげようという動きは各地に広がっている。

特産の次郎柿が色づく愛知県豊橋市。柿や梨、ブドウなどを生産する岩瀬宏二さんの果樹園には一風変わった風景が広がる。根元に使い古された畳が敷かれているのだ。「畳は土壌改良材の代替です。ひっくり返すとミミズがたくさん出てきますよ」と岩瀬さんは笑う。

岩瀬さんは2008年ごろから、石が多くて痩せていた土を改良しようと古畳の活用を始めた。古畳は従来、畳屋が産業廃棄物として費用を払って処分していたもの。岩瀬さんは年約2千畳分を無償で提供してもらって果樹園に敷いた。土壌改良材で一般的な稲わらはかさばって持ち運びも不便だが、畳は効率的に運べる。改良の効果も稲わらとほぼ同じという。

古畳の効果で栄養分が豊かな土になり、冬には根を寒さから守る保温材にもなる。岩瀬さんは「コスト削減効果は数字で表しにくいが、肥料や農薬をまく回数が減った」と強調する。収穫した果物のほぼすべてを地元スーパーなどで直接販売し、売れ行きも好調だ。

工場の廃熱利用

三重県松阪市で栽培面積2万平方メートルと国内最大級の植物工場の建設が進む。来夏の本格稼働を目指すこの工場には生産コストを大きく減らす仕掛けが施される。運営会社「うれし野アグリ」に共同出資する辻製油(同市)の工場から出る熱エネルギーを使いガラス製ハウスを温めるのだ。

高品質の農作物を安定供給できる植物工場の建設は全国各地で進む。ただ、電気や重油といった燃料価格の上昇が続けば採算は厳しくなる。燃料費の削減は植物工場の成否を大きく左右する。

うれし野アグリではまず約150メートル離れた辻製油の工場から出る廃熱で80~90度のお湯を沸かす。そのお湯をパイプラインでハウス内に循環させ冬場に室温を上げる。

ハウスで生産する予定のミニトマトは、年間を通じて室温を昼間は23~25度、夜間は14~16度に保つことで生育を最適化できる。新植物工場の構想を練ってきた浅井農園(津市)の浅井雄一郎社長は「従来と比べてエネルギーコストを70~80%削減しつつ、収穫量は平均の3倍を狙う」と自信をのぞかせる。

限られた資源を有効に活用する循環型社会。そこではコスト削減の取り組みが単なる節約に終わらず、イノベーションにつながる可能性がある。その先には品質と価格競争力が両立する新たな農業の姿も見えてくる。

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