現代中国の父 トウ小平(上・下) エズラ・F・ヴォーゲル著 改革開放進めた最高実力者の半生

2013/10/21付
保存
共有
印刷
その他

ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授といえば、日本では誰もが『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)を思い出す。ヴォーゲル教授はわれわれには日本研究者として有名だが、中国研究の分野でも数多くの労作がある。

(益尾知佐子・杉本孝訳、日本経済新聞出版社・各3800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(益尾知佐子・杉本孝訳、日本経済新聞出版社・各3800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

このヴォーゲル教授が70歳を超えて大学を退いた後、10年にわたる調査を重ねて完成させたのが本書である。執筆にあたって、著者はトウ小平の一族やその関係者をはじめ、中国、米国、日本など世界各国で数多くのインタビュー調査を行い、それらを膨大な文献資料で補っている。著者の実証主義は徹底している。

本書は、主として、中華人民共和国建国以後のトウ小平の半生を描いている。毛沢東はトウの能力を高く評価したが、それだけに不信感も強く、晩年までトウを抜擢(ばってき)しては失脚に追い込むパターンを繰り返した。トウ小平は息子を半身不随にした文化大革命を恨んだが、それでも毛沢東に対する忠誠心は完全には捨てきれなかった。本書では、両者の複雑な関係が描かれている。

78年以降、最高実力者となったトウ小平は日本を含む海外に指導者を積極的に派遣し、謙虚に先進経験を学ぶよう訴えた。著者によれば、それは日本のかつての岩倉使節団のようであった。

天安門事件に際して、トウ小平は断固たる処置を取ることに躊躇(ちゅうちょ)しなかった。だがその過程で保守派が勢いづくと、かれは社会主義を前提としながらも市場経済の方向に大胆に舵(かじ)を切るよう強く説き、その決定を見届けると直ちに全面引退した。著者は今日の発展の礎となったこの南巡講話で生涯の記述を結んでいる。

翻って現在の中国を見渡すと、政治腐敗や格差不満が蔓延(まんえん)し、毛沢東を称(たた)える声も大きい。ヴォーゲル教授は最近ご一緒した会議で、中国は今こそトウ小平に学び大胆に改革開放すべきだと語っていた。また教授は悪化する日中関係の改善を求めて、完璧な日本語と中国語を駆使して日中両国で講演を続けている。日本と中国の両国に精通した、数少ない米国の東アジア通であるヴォーゲル教授の熱き想いには頭が下がる。

(防衛大学校長 国分良成)

[日本経済新聞朝刊2013年10月20日付]

現代中国の父 トウ小平(上)

著者:エズラ・F・ヴォーゲル
出版:日本経済新聞出版社
価格:3,990円(税込み)

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]