2019年3月21日(木)

映画人・菊池寛 志村三代子著 映画界とのかかわりに焦点

2013/9/30付
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菊池寛といえば従来、作家として、また文芸春秋を興した出版人として語られてきたが、本書は菊池寛が他方で映画界とも深くかかわってきたことに焦点を当てている。

(藤原書店・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(藤原書店・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

まず何よりも菊池寛の人気小説は次々に映画化された。実に百二本も作られ「菊池もの」と呼ばれたという。ちょうどトーキー時代になり、映画界が大衆娯楽の要素が強い菊池作品を求めたし、菊池寛自身も急成長している映画を意識していた。

令嬢と芸妓(げいぎ)という対照的な女性を主人公にした「東京行進曲」は映画化され大ヒットしただけではなく、佐藤千夜子の歌う主題歌もまた大人気になった。

小説と映画、レコード、それにさまざまな形の宣伝が一体化する現象が生まれた。現在でいうメディア・ミックスを菊池寛は先取りしていたと著者はいう。

菊池寛の小説には自己主張する新しい女性が数多く登場する。恋愛にも積極的。だから新中間層の女性たちに広く読まれた。

そういう菊池だからだろう、1935年(昭和10年)に志賀暁子という女優が堕胎のスキャンダルで世の批判を浴びた時、彼女をかばい、自分の原作の映画に出演させた。この事件を論じた章は特に読ませる。

戦時下、政府の指導により日活など数社が統合し、大映が誕生した。菊池寛はその社長に就任、映画との関係がより深くなった。

大映時代については孫の菊池夏樹の『菊池寛と大映』(白水社)があるが、本書も詳しく活動をあとづけている。

大映は国策会社だったから当然時局に沿った映画が作られる。元寇(げんこう)を描いた「かくて神風は吹く」や「剣聖武蔵伝」など。

他方で菊池寛は松竹作品「西住戦車長伝」に原作を提供する。中国戦線で戦死し、メディアによって軍神に祭り上げられた西住中尉を描いた作品で、戦時下、菊池寛は映画を通じて軍国主義に深く関わってゆく。

映画研究者である著者は菊池寛原作の映画を詳しく分析しながら丹念にその功罪をとらえてゆく。

菊池寛がどういう思いで国策映画を作ったのか。これについてはさらに検討が必要だろう。

(評論家 川本三郎)

[日本経済新聞朝刊2013年9月29日付]

映画人・菊池寛

著者:志村 三代子
出版:藤原書店
価格:2,940円(税込み)

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