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ウェブ社会のゆくえ 鈴木謙介著

生活の変化と「つながり」

日がな一日スマートフォンを手にして、移動中も会議中も、友人や家族に会っているときでさえ目の前には「いない」どこかの誰かとコミュニケーションを取る――一昔前ならこういった行為は「メディアに耽溺(たんでき)する病的な若者」として、指弾と排除の対象になっていただろう。しかし、21世紀を生きる私たちは、フェイスブックに登録している1000人の「友達」の動向を四六時中気にしている人物は少なくとも「コミュニケーション力の低い若者」ではないことを知っている。あるいは何ヵ月も顔を合わせていないがソーシャルメディアで毎日のようにやり取りをしている友人と、月に一度会食する友人のどちらを私たちは「親しい」と考えるかも明らかだ。

(NHK出版・1000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

そう、気づいている人は少ないがインターネットの普及が産み落としたのはバーチャルな「もうひとつの世界」とそこに引きこもる若者たちではなく、「この現実そのもの」とそこに生きる私たちの生活の変化だ。両者は一見似通っているが、実は正反対のことを意味する。そして本書は後者を「多孔化」した社会と名付け、その長所と短所を併記しながらひとつひとつ、丁寧に検証したものだ。

その手探りだが誠実な論述の果てに浮かび上がってくるのは、多様化と細分化の進むこの社会をどうやって再び「つなぐ」のかという問題だ。いまインターネットによってコミュニティは場所と紐(ひも)づけられなくなり、ひいてはコミュニケーションの形態そのものが変わりつつある。この条件下では従来の歴史教育や地域コミュニティの運営ノウハウの多くが機能を大きく低下させる。

一見、社会の分断を加速するだけのように思われがちな「多孔化」を経たからこそ可能な「つながり」とは何か。その答えを巡る議論はまだはじまったばかりだ。しかし、テレビや新聞のようにばらばらのものを統合して1つに「まとめる」のではなく、ばらばらのものをそのかたちをのこしたまま「つなぐ」という著者のビジョンのゆくえこそが、まさに今後のウェブ社会の「ゆくえ」そのものであることは間違いない。

(評論家 宇野常寛)

[日本経済新聞朝刊2013年9月22日付]

ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス No.1207)

著者:鈴木 謙介
出版:NHK出版
価格:1,050円(税込み)

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