名誉の殺人 アイシェ・ヨナル著 閉鎖的社会が生み出す不幸

2013/9/18付
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一族の名誉を汚す罪を犯した女性を、父親や男兄弟が殺害する「名誉の殺人」。国連人口基金によると、年間5000人の女性が殺されているという。トルコでは、2000年から05年の間に、1806人の女性が殺害され、さらに、5375人が家族からの圧力により自殺している。

(安東建訳、朝日新聞出版・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(安東建訳、朝日新聞出版・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

殺された女性たちは、何も語ることはできない。家族も地域も口を閉ざしてしまうため、真実は闇の中に葬り去られる。トルコ人のジャーナリストで、テレビプロデューサーである著者は、「名誉の殺人」を犯して服役している男たちにインタビューし、関係者に対して綿密な取材を重ね、その閉ざされた真実を明らかにした。

10の物語から成る本書でひときわ目を引くのは、地域の人間たちが無責任に噂を流し、家族を追い詰めていくさまである。

名誉の殺人で命を落とすのは、婚外・婚前交渉など、彼らの定義する罪を犯した女性だけではない。不幸にして強姦された女性や、街で売春婦と噂されただけの女性でさえも、その犠牲となる。殺人を実行するまで圧力をかけ続ける者たちは、実際に殺害が為(な)された途端、そっぽを向く。

第2章で夫以外の男と関係を持った母親を殺害したウルファ出身のムラトはこう言った。

「あなたは聞くだろうね。『それで、あなたの名誉は回復したの?』と。いいや、今はもっと悪い。自分は殺人者になった。(中略)来世で僕に一番ふさわしいのは、地獄だろう」

身内が女性を殺害することで、家族に二重の悲劇をもたらす名誉の殺人。結局、女性たちはなぜ死ななければならなかったのか。閉鎖的社会が生み出す不幸の連鎖を止める方法は、この本のどこにも記されてはいない。

「残虐行為に沈黙する者はみな、犯罪の幇助(ほうじょ)者となる。私は沈黙したままではいたくなかった」

著者の言葉は重い。遠く離れた異国で起きる悲しみの物語を、私たちは傍観するしかないのか。

女性たちが救われる未来を思い描くのは難しい。ただ、この事実から目を背けてはならないことだけは、確かだ。

(ノンフィクションライター 城戸久枝)

[日本経済新聞朝刊2013年9月15日付]

名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち (朝日選書)

著者:アイシェ・ヨナル
出版:朝日新聞出版
価格:1,680円(税込み)

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