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持続可能な医療を創る 森臨太郎著

グローバル化の視点で改革を提言

医療のあり方を考えるとき、副題にあるようにグローバル(全地球あるいは多国籍)化は大切で見落とせない視点だ。医療はこれまでともすれば内向き、国内だけを見ていた。これが現在の医療を取り巻く様々な課題、例えば医師不足や治療の標準化にまつわる諸問題、医療情報の流通問題などを引き起こす要因の一つになっていることは否定できない。

小児科医で、海外での診療経験もある著者の手になる本書は、医療財政をはじめ曲がり角にきている日本の医療体制について語る。大部な本ではなく、一気に読めるだろう。終わりに「新しい医療圏の設定」や「人材強化とグローバルなルール作りへの参加」など八つの提言をしている点が良い。「新しい医療圏の設定」では、改革には現在の生活圏に即した医療圏の再設定が必須と説く。

もう一つ評者が同意するのが「適切な評価」の重要性である。

医療政策を作る場合、あるいは患者に最適な治療法を選択するときは科学的根拠がしっかりした、適切な評価は欠かせない。現在の医療政策などは利害関係者、言い換えれば医療に関して既得権をもっている人たちに配慮した面が強く、肝心の患者というものが忘れ去られているように思う。本来、医療というのは、医のもとの平等や公正を基本にしていると思うのだが……。

グローバル化に話を戻そう。

世界の医療制度は三つに大別できるだろう。一つは英国や北欧諸国など、医療も市民が最低限享受するものという考えから医療費をほぼ全額税金でまかなう国(税金型)、もう一つは自分の体は自分で守るという自助努力の国(民間保険主体型。米国が典型だが、米国にも働けない人を対象にしたメディケア、メディケイドがある)だ。第三はドイツや日本のように国や企業、市民が資金を出し合う社会保険型である。

どれも一長一短があり、問題を抱える。また、どの制度を選択するかはその国の文化的背景や市民の意識があり、どれが良いとはいえない。

ただ、医療のあり方を模索する上で、人材養成を含めたグローバル化の視点は欠かせないのも事実だ。

(江戸川大学特任教授 中村雅美)

[日本経済新聞朝刊2013年9月15日付]

持続可能な医療を創る――グローバルな視点からの提言

著者:森 臨太郎
出版:岩波書店
価格:2,520円(税込み)

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