2019年3月20日(水)

国や都市の未来を考える五輪に

2013/9/10付
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東京が2020年の夏季オリンピックの招致を勝ち取った。半世紀前の東京五輪がそうであったように、五輪は単なるスポーツの祭典にとどまらない。その国の歴史のひとつの転換点になる巨大なイベントだ。7年後の五輪の開催をこの国、そして都市の未来を考える契機にしたい。

東京は確実で安全な大会の運営能力と併せて、若者に夢を与え、被災地の人々を励ましたスポーツの力を訴えた。最終プレゼンテーションでは安倍晋三首相が福島の汚染水漏れについて「状況は制御されている」と説明した。

復興事業を力強く

この発言には違和感もあるが、世界が不安視する原子力発電所の問題を早期に収束させることが、政府に課せられた第一の使命だ。

東北の被災地では住宅再建がようやく始まった段階だ。避難生活を続けている被災者もいまだに30万人近い。7年後に三陸沿岸を走るであろう聖火ランナーを、ふるさとに戻った人々が笑顔で迎えられるように、復興事業を力強く進めなければならない。

1964年の東京五輪は、貧弱だった東京のインフラを世界的な水準に変え、日本経済を支える都市基盤を私たちに残した。その一方で、江戸以来の歴史がある水辺空間や古い街並みを奪ったのもあの五輪に向けた開発事業だった。

くしくも、当時建設した首都高速道路が更新期に入るなど、インフラの老朽化が目立っている。加えて、東京は23区の主要な道路でさえ、電柱が多数残るなど、様々な課題を抱えている。

インフラの安全性を維持しながら、公園や街路樹を増やし、景観面でも誇れる都市に変えたい。

東京は世界有数の国際都市ではあるが、11年の国際会議の開催件数をみると、主要都市で7位になっている。アジアではシンガポールに加えて、ソウルにも後じんを拝している。外国人観光客も増えているとはいえ、観光立国に向けた道はまだ遠い。

日本の魅力は、体験して初めて実感するものが多い。列車運行の正確さや自動ドアなど移動時の快適さ、清潔で安全な街などだ。飲食店も高級店から安価でおいしい店まで多彩にそろっている。大勢の外国人が来る五輪は魅力を訴える好機になる。

五輪には多様な言語の観光客が来る。携帯型の情報端末は今より進化、普及していよう。例えば、地図や案内図を多言語で作りネットで事前に配布する。無料でネット接続できる場所を増やし、街なかで端末をかざせば風景と案内が同時に見られるようにする。

どれも今の技術で可能だ。街なかの外国語表示や案内所を増やすのと並行し、こうした新たな観光案内にも力を入れたい。

同時開催のパラリンピックを機に「障害者が移動しやすい街」であることを世界に訴えるのもいい。空港やホテルなどで、これまで不足していた富裕客向けの施設やサービスも充実させたい。

日本文化を伝え、外国人も満足する質の高い土産の充実は次の「地方観光」にもつながる。ソフト面に力を入れることこそ、外国人をひき付けるカギだ。

東京都などの推計では五輪の経済波及効果は3兆円にのぼり、全国で15万人の雇用を創出する。これには競技施設以外のインフラ投資は含まれておらず、極めて控えめな数字だろう。

身の丈に合う大会を

今回、五輪の開催が決まったことは、日本経済のデフレからの脱却や、持続的な成長に向けた好材料になるだろう。

しかし、五輪が公共事業の大盤振る舞いにお墨付きを与えたわけでは決してない。関係予算の使い道の透明性を高めて、あくまで身の丈に合わせた大会にしたい。それこそが、成熟した国における五輪に違いない。

各競技団体は今後、若手選手の育成や強化に努めるだろう。五輪出場を夢に、若者が懸命に励む姿は美しいが、メダルの数だけを追いかけるような大会にはしてほしくない。

柔道界では相変わらず不祥事が続いている。暴力を容認するかのような旧弊をただすことから、日本のスポーツ界は20年に向けて歩み始めてほしい。

今回、東京が招致に成功した背景には、五輪に対する国民の支持率が格段に高くなったこともあげられる。今後、多くの国民が様々なイベントへの参加やボランティア活動を通じて五輪にかかわることになるだろう。

国民の力で、7年後の大会をぜひとも成功させたい。

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