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血盟団事件 中島岳志著

信仰で結びついた青年たち

昭和の激動期、軍部主導のクーデター計画が三月事件、十月事件として潰(つい)えた後、「一人一殺」という理念を掲げ、「政党」「財閥」「特権階級」を象徴する人物に対して個人テロを仕掛けていった集団が存在した。血盟団と称された人々である。血盟団によるテロは、五・一五事件、二・二六事件の遠因となり、結果として政党政治は崩壊し、挙国一致内閣が組織され、近代国家日本は「大東亜戦争」の泥沼に巻き込まれていった。

(文芸春秋・2100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

血盟団は、宗教的なカリスマである井上日召に率いられ、法華経信仰を核として鉄壁の結束を誇った集団である。地方の貧しい青年たちと大学に通う都市のエリートたちが信仰によって一つに結びついた。彼らにとって暗殺は、仏と一体化して「三昧境」に入るための神秘的かつ特権的な行為であった。彼らは資本主義の進展による激烈な格差の拡大を宗教的な実践によって一挙に転覆すること、その宗教的な革命の「捨石」となることを志した。血盟団は決して狂信的な集団ではなかった。天皇と民衆が一体化し、宗教的な平等に基づいた自律的な共同社会の確立を純粋に、あまりにも純粋すぎるほどに目指した青年たちだった。

新たな世界を建設するためには旧(ふる)い世界は破壊されなければならない。血盟団は「破壊の創造性」を説き、「革命」を論じるのではなく「革命」を生きることを説いた。著者は最後にこう記す。「血盟団事件は、煩悶(はんもん)からの解放と理想社会の誕生を夢見て決行された宗教的供犠だったのである」。井上日召の神秘体験を誰も疑うことはできない。日召は神秘体験による自己と宇宙の、人間と森羅万象の、あるいは一と多の一体と同根を説いた。もちろんそこには明らかに「国家」を絶対視することの限界も存在している。

しかし、聖なるものとの一体化に基盤に置いた変革への運動はつねに強い力を持ち、人々を惹(ひ)きつける。神秘主義、革命、テロリズム。著者が本書で論じているのは過去の問題ではない。いまだに資本主義に抗(あらが)うための宗教的な抵抗運動が各地で大規模に組織されている現代世界において、誰もが解決を望みつつも成し得ていない問題である。

(文芸評論家 安藤礼二)

[日本経済新聞朝刊2013年9月8日付]

血盟団事件

著者:中島 岳志
出版:文藝春秋
価格:2,205円(税込み)

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