失踪者たちの画家 ポール・ラファージ著 塗り込められた都市のイメージ

2013/8/12付
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筋を追っていくような早読みでは報われない。じわじわと親しんでいくべき小説である。2回めの読書の方が味わいが濃い。だから3度めも読みたくなる。

(柴田元幸訳、中央公論新社・2100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(柴田元幸訳、中央公論新社・2100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

理由はきっと、この作品がイメージを塗り込めるようにして描かれているからだろう。短い序と終章に挟まれた3つの章は、3枚の大きな連作画のよう。シャガールの「私と村」の手法によって現代作家が「私と都市」を描いたら、こんな風になるのかもしれない。

国も時代もはっきりしない〈都市〉の「巡回裁判官相手の下宿屋」に、まず読者は連れて行かれ、屋根裏部屋の窓から、尖塔(せんとう)やずんぐりした給水タワー、川沿いに建つ工場の煙に引き合わされる。幻想的なガラスの塔も天に向かって伸びている。

路面電車の走る近過去の雰囲気もたたえた〈都市〉が、しだいにその深淵をさらしていく。神話、お伽噺(とぎばなし)、SFディストピアのエキスが、しみ出てくる。

むかし身の丈5キロの巨人が行き倒れ、その死体の上に築かれたと語られる〈都市〉は、むかし月を裁いて満ち欠けの罰を与えてしまったらしく、その呪いによってか、時々その一部を失う。住民もゴッソリ消える。町がいわば失踪者であふれる。その失踪者の似姿を、親族知人の話から再構成してポスターに描くのが主人公フランク。彼は、死の全体を撮ることで死体に事実を語らせることのできる女性写真家に恋をする。だがその彼女も消えてしまう。

不思議な雰囲気は深まるばかり。2つめの章にでてくる監獄の不条理は、カフカ、ボルヘス、オーウェル好きをきっと満足させるだろう。最後の章は、自動人形譚(たん)としても最高の出来映(できば)えだ。

ポール・ラファージは1970年ニューヨーク生まれ。これは彼が20代のときに書いたデビュー作である。この後、すでに3冊の意欲作を出版している。

ポール・オースター(孤独と失踪の詩情といえばこの人)と、スティーヴン・ミルハウザー(呪物的描写の達人)を日本に紹介した訳者が、久しぶりに、次代の大物を連れてきた。

(米文学者 佐藤良明)

[日本経済新聞朝刊2013年8月11日付]

失踪者たちの画家

著者:ポール・ラファージ
出版:中央公論新社
価格:2,205円(税込み)

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