/

エイズの起源 ジャック・ペパン著

アフリカでの種を超えた感染

本書によると、エイズことHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が医学的に認識されたのは1981年6月だ、という。新種の感染症患者を報告した、CDC(米国疾病管理予防センター)の週報である。

(山本太郎訳、みすず書房・4000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

それから30余年。抗HIV薬も開発はされたが、世界で2900万人以上が死亡するパンデミック(世界的大流行)を起こした。

著者は「HIVはいつ現れ、どのように世界に広まったか」を考えてきた。その考証を、80年代前半、アフリカのザイール(現・コンゴ民主共和国)での医療経験と膨大な資料を踏まえて著者は展開する。

HIVはSIV(サル免疫不全ウイルス)が祖だ。開発が進み、中部アフリカに生息するツェゴチンパンジーもヒトの食用の対象になった。銃器類を用いて捕獲、解体を行う際、SIV感染の血液を含めた体液と接触して種を超えた感染が成立した、それは1921年ごろ、と著者はまず分析する。

限られた感染者から、なぜ世界に広まったか?が読みどころだ。

著者は、欧州列強のアフリカでの風土病対策も含めた植民地医療を考察した。中でも、仏領中部アフリカでの近代医療の導入は全住民の健康を対象としたが、消毒不十分な注射針による注射の回し打ちがHIV患者を増やす「史上最大の医原性流行」を起こし、売春がこれに輪を掛けた。そして60年代、カリブ海諸国がコンゴの国家建設を支援し、多くのハイチ人がコンゴに渡り、コンゴ女性と性的関係も持つ。HIVはハイチに渡り、米国本土を射程に収めた――。

エイズの始まり、種を超えた感染については、「ヒトが動物とセックスしたから」という見方が興味本位も含めてこれまで語られてきた。だが、アフリカを知る著者が野生のチンパンジーの性質の荒さを指摘もし、その可能性の低さを考えさせた意義は大きく思う。

有史以来多くの感染症が地球上に現れたが、この新興ウイルスは開発、貧困、国際協力など人間の社会活動と密接に関与して、短時間で人類を脅かす存在となった。その事実の重さは、380ページ超の本書の紙幅そのものでもある。

(ノンフィクション作家 小林照幸)

[日本経済新聞朝刊2013年8月11日付]

エイズの起源

著者:ジャック・ペパン
出版:みすず書房
価格:4,200円(税込み)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン