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オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史(1~3) オリバー・ストーン、ピーター・カズニック著

「正史」にひそむ矛盾を浮き彫りに

本書は「プラトーン」「JFK」などの作品で知られる社会派の映画監督オリバー・ストーンと歴史学者のピーター・カズニックが編む「帝国」としての米国史である。第1次大戦期からオバマ政権までを射程に、米国の軍事介入や外交をめぐる政治過程の欺瞞(ぎまん)に切り込む。土台となっているのは著者の2人が制作し、米国で話題を集めたテレビシリーズで、日本でもNHKのBS番組で放送されている。

(大田直子ほか訳、早川書房・1~2巻各2000円、3巻2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は「正史」の中に潜む矛盾を浮き彫りにする。米国の大企業によるナチスへの資金援助、東南アジアやラテンアメリカ諸国への軍事攻撃の裏事情など、米国に都合の悪い過去をこれでもかとあぶり出す。無人機攻撃を看過するオバマ政権の外交にも厳しい批判を加える。

日本の読者にとって興味深いのは、広島と長崎への原爆投下が必要なかったとの記述だろう。米国では原爆投下は戦争の早期終結のためとして正当化されている。しかし、米国は日本が降伏寸前であったことを知りながら、ソ連を牽制(けんせい)するために投下を決断した、というのが本書の説だ。「原子爆弾の保有・示威行為」によって欧州での「ソ連の影響力」を抑えようとしたバーンズ国務長官の思惑が詳述される。

ただ、留意しておきたいのは本書の力点が一般の米国人が学校で学ばない、「語られなかった歴史」というオルタナティブな視点にあることだ。著者らは「米国人は歴史を知らない」と指摘する。本書の内容に歴史学上の「新発見」があるわけではなく、修正主義派の歴史解釈の再強調が狙いだ。原爆投下を冷戦の前哨戦として捉える「原爆外交」論も、1960年代に歴史学者ガー・アルペロビッツが明らかにして以来、米学界では長年激しい論争が交わされてきた経緯がある。しかし、専門家の議論に限定されていた歴史解釈を一般向けに平易に提示した意義は大きい。

本書はストーン監督の数々の映画作品ともテーマが重なる。監督とその「知恵袋」の歴史学者という異色コンビによる本書は、ストーン映画のファンにとっても、映画の魅力の再発見に繋(つな)がるかもしれない。

(北海道大学准教授 渡辺将人)

[日本経済新聞朝刊2013年8月11日付]

オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下

著者:オリバー・ストーン, ピーター・カズニック
出版:早川書房
価格:2,100円(税込み)

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