原爆の記憶を風化させるな

2013/8/6付
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広島と長崎が原爆の惨禍を被って68年目の夏を迎えた。全国の被爆者の平均年齢は今年3月時点で78.8歳になった。被爆地でも原爆体験のない世代が多数を占めるようになっている。被爆国として原爆の記憶を風化させることはあってはならない。

広島市の袋町小学校。爆心地から460メートルほど離れたこの学校の旧校舎から「荒木絹枝 生死不明」など被爆直後の伝言やメモなどが書かれた壁や柱が見つかって10年あまりになる。

これら生々しい記録を後世に残そうとする関係者の努力にもかかわらず、最近訪ねるとチョークで書いた「患者村上」などの文字は判読しづらくなっていた。

形のない記憶を残すのはさらに難しい。広島原爆死没者追悼平和祈念館は多くの被爆者の証言を映像や文書にして保存するが、修学旅行などで来館した若い人たちにじかに話す語り部は減る一方だ。

広島市は昨年、被爆直後の市内を撮影した映像や写真をみて、当時の模様を次代に語る「体験伝承者」の育成を始めた。被爆2世ら100人を超える人が参加した。こうした試みは地方自治体に任せきりにせず、国が積極的に取り組んでもらいたい。

2010年にロシアと新しい戦略兵器削減条約(新START)を締結したオバマ米大統領は今年、さらなる核軍縮を提唱した。だが、米ロ関係の悪化などで交渉は進んでいない。中国も核兵器の削減には後ろ向きだ。

どうすれば事態を打開できるのだろうか。核大国・米国の現職首脳が被爆地を訪れたことはない。オバマ氏が来年の訪日時に足を運べば、世界中に核軍縮への期待感を再び呼び起こすことができるのではないだろうか。

そのためには日本が被害者としての立場を強調しすぎないことだ。これは被爆体験を語り継ぐことと矛盾しない。加害者と被害者が恩讐(おんしゅう)を超えて手を携えることで、世界に核時代の終わりを印象付けることができる。

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