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私たちはなぜ税金を納めるのか 諸富徹著

欧米の思想史から大局的に考察

「富士山はなぜそこにあるのか」「日本人はなぜ『さようなら』と別れるのか」「猫はなぜ鏡を見ないのか」。素朴かつ良質な問いによって、その分野の本質に迫ることを喜びとする読者であれば、必ずや本書に魅了されるであろう。

身近であるがゆえに分かりにくい税。この税が私たちと国家、市場経済をどのように結びつけているのかを、本書は欧米の租税思想の歴史を丁寧にひもときながら明らかにする。分析の射程は英国の市民革命から大恐慌やリーマン・ショックを経て現在に至る400年間。トマス・ホッブズやジョン・ロック、ロレンツ・フォン・シュタインによる租税理論、人間の行為動機に関するアダム・スミスやアドルフ・ワーグナーの考え方にも言及しつつ、21世紀の税制を展望する。

国内外で財政危機が日常化し、税制に関する議論がときに迷走、ときに急展開し、安定性を失いがちな現在、租税思想の歴史をふんだんに盛り込み、大局的な視点を提供する本書の意義は極めて大きい。

税を納めることは「義務」なのか、それとも「権利」なのか。租税は国家にとって「財源調達手段」なのか、それとも「政策遂行手段」なのか。所得税はこれまで常に合憲であったのか。通貨危機を防ぐために税ができることは何か。税は国境を越えられるのか。

租税についての問いは尽きない。本書で示される税を巡る様々な問題提起に刺激されて、読者は税への好奇心をかきたてられるであろう。

「経済学にいま求められているのは、現実との格闘の中から新しい理論を発展させていくことだ」。これは、著者が『ヒューマニティーズ 経済学』(岩波書店・2009年)において述べた言葉であり、本書はその続編ともいえるだろう。本書は、まさに、現実との格闘の中から新たな租税理論を生み出すことに成功している。

私たちの使命は私たち自身を幸福にする税制を勝ち取ることである――。著者の格闘を追体験することを通じ、この言葉が読者の心に刻みこまれるにちがいない。

(慶応義塾大学教授 藤田康範)

[日本経済新聞朝刊2013年7月14日付]

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

著者:諸富 徹
出版:新潮社
価格:1,470円(税込み)

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