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教える力 井村雅代著、聞き手・松井久子

井村雅代の愛情と冷徹

(新潮社・1200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

シンクロナイズド・スイミングの名指導者の語りおろしに「心ここにあらず」は皆無だ。妥協と打算はとっくに死語である。全篇(ぺん)、すべての行に本当に思ったことだけが記されている。

日本の独自性を追究、海外列強からおそれられる実績を残すも、ありがちな嫉妬と政治に中枢より遠ざけられる。そこへ中国から声がかかった。北京、ロンドン五輪での同国の躍進は記憶に新しい。軸をなくした日本の低落もまた必然だった。

個性を見抜いてチームの到達像を描く。緻密な準備とふいの直感はコーチが天職の著者の内面ではぶつからぬ。「選手の人生は今なんですよ。あの子たちに一〇年後はないんです」。この迫力が周囲の凡庸を蹴散らす。

勝負とは、矛盾の体系でもある。愛情と冷徹は火の玉の情熱によって深いところでまじわる。

昨今の体罰不祥事での問題提起は鋭く、世の「勝利至上主義批判」の浅薄についても、結果を求めるスポーツの崇高を説いてウソはない。

「教える力」を読者に分け与える一冊ではない。そんなこと無理だ。ここに描かれる「力」は、ただ井村雅代だけの資質である。だから説得力があるのだ。

★★★★

(スポーツライター 藤島大)

[日本経済新聞夕刊2013年6月26日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

教える力: 私はなぜ中国チームのコーチになったのか

著者:井村 雅代, 松井 久子
出版:新潮社
価格:1,260円(税込み)

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