満州航空の全貌 前間孝則著 謀略に参加した「半軍半民」会社

2013/6/19付
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「13年しか続かなかった幻のマンチュリア……」と、「ミュージカル李香蘭」の序幕で狂言回し役の川島芳子は哀惜を籠(こ)めて歌い上げたが、束(つか)の間の実験国家ながら満州国は戦後日本にさまざまな形で遺産を残している。

(草思社・2600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(草思社・2600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

李香蘭の所属した満映(満州映画協会)の監督、俳優、プロデューサーを戦後、五島慶太の東横映画が受け入れ、東映の黄金時代を築き上げた。また、鉄道を主軸とした一大コングロマリットの満鉄(南満州鉄道株式会社)は、特急「あじあ号」などの先端高度技術を戦後日本の新幹線に引き継いでいる。

"満州少国民"だった私にとって、満映や満鉄は懐かしい思い出のよすがだが、満州航空という民間の航空会社の実態は、恥ずかしながら本書で初めて知った。

〈民間〉とはいっても、日中戦争の舞台だった大陸のこと。軍部(関東軍)とは無縁ではない。いや"半軍半民"的産物といってよいだろう。民間の航空会社でありながら軍民両用の"表"と"裏"の顔を持つ"双貌の翼"。表の顔は一般旅客、物資、郵便を定期的に運航したが、裏の顔では抗日ゲリラ、匪賊(ひぞく)、蒋介石軍を空爆するという正規軍同様の軍事作戦にも参加した。

満州航空を運営したのは、日露戦争の英雄・児玉源太郎の四男の児玉常雄。本書ではその大陸的性格のリーダーシップの下、中国大陸を飛翔(ひしょう)するヒコーキ野郎たちの大空のロマンが生き生きと描かれている。また、石原莞爾のほか、甘粕正彦、川島芳子、笹川良一、児玉誉士夫、田中隆吉ら満州裏面史に登場する人物が随所に見え隠れし、興味深い。

しかし、民間航空でありながら熱河作戦、綏遠(すいえん)事件などの謀略工作に参加した隠密飛行に象徴されるように、満州航空は次第に関東軍の官僚主義に牛耳られ、国家の運命と共に性格破綻をきたす中で敗戦の悲劇を迎えた。

日本亡命のため満州航空で脱出を図った皇帝溥儀一行が、奉天空港でソ連空挺(くうてい)部隊に制止・逮捕されたことも象徴的である。

(エッセイスト 藤原作弥)

[日本経済新聞朝刊2013年6月16日付]

満州航空の全貌: 1932~1945大陸を翔けた双貌の翼

著者:前間 孝則
出版:草思社
価格:2,730円(税込み)

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