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棕櫚の葉を風にそよがせよ 野呂邦暢著

喧騒とは無縁の澄明な世界

(文遊社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

昔、野呂邦暢という作家がいた。亡くなったのは1980年。42歳という若さだった。30年以上の時間が過ぎたことになる。

もっとも世に知られているのは芥川賞を受賞した「草のつるぎ」だろう。他にも郷里・諫早を舞台にした佳品を数多く残した。

けっして目立つ作風ではない。時代を駆け抜けるような疾走感もない。風景を正確に写し、抑制のきいた表現で職人的な小説を多く残した。

むろん私もそうだが、野呂にはファンが多い。だから彼の死後も細々とだが、複数の出版社から彼の作品集が編まれ、出版されてきた。それ自体、稀有(けう)だと思う。

そして今度、文遊社から全8巻の予定で小説集成が刊行され始めた。第1巻は、初単行本化の短編2編を含む初期小説集である。

中でも彼の第1作「壁の絵」は本当に素晴らしい。アメリカへの憧憬を、朝鮮戦争勃発時の日本で、屈折した感情のうちに書き留めた小説。朝鮮戦争をこんな形で小説にした例は、他に思い浮かばない。喧騒(けんそう)とは無縁の澄明な世界に入る。小説を読む喜びに浸る。小説の世界から出たくなくなる。

★★★★

(批評家 陣野俊史)

[日本経済新聞夕刊2013年6月12日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

棕櫚の葉を風にそよがせよ (野呂邦暢小説集成1)

著者:野呂邦暢
出版:文遊社
価格:2,940円(税込み)

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