2019年4月19日(金)

消えた国 追われた人々 池内紀著 現代史の隠れた物語

2013/6/10付
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第2次世界大戦によって長い歴史を持つ国が一つ消えた。東プロシア。今日、語られることが少なく歴史から忘れ去られている。

(みすず書房・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(みすず書房・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

ドイツ文学者の著者はその消えた国に興味を持ち旅をする。

ただの旅行記に終わらず、現代史の隠れた物語になっていて読みごたえがある。多くを教えられる。

いま東ヨーロッパの地図を見るとバルト海に面して不思議な一画がある。リトアニアとポーランドに挟まれたところでロシア連邦になっている。ロシアの飛び地。

ここがかつて東プロシアだった(リトアニアとポーランドの一部も含む)。ドイツ領。

約700年にわたってドイツ人が町を作ってきた。哲学者のカントを始め、作家のホフマン、さらには天文学で名を残しているコペルニクスも東プロシアで暮らしたという。

その国が消えたのは、第2次世界大戦の末期、ソ連軍が侵攻してきたから。現在、ロシアの飛び地になっているのはそのため。

おそらくソ連に備えたのだろうヒトラーは東プロシアに「狼の巣」と呼ばれる作戦本部をひそかに作った。1944年、未遂に終わったヒトラー暗殺が企てられたのはここだったというのも意外な事実。著者はゆったりと旅しながらさりげなく現代史を語ってゆく。

45年の1月、ソ連が東プロシアに侵攻する。ドイツ軍は敗走する。そしてこの時、多くのドイツ人が犠牲になった。

ドイツの悲劇だが、ナチス・ドイツは第2次世界大戦の加害国だったからこの事実はほとんど語られず歴史から消えた。

著者はギュンター・グラスの新作の翻訳を機に、グラスの故郷ダンツィヒ(現在はポーランドのグダニスク)に接する東プロシアの歴史に興味を覚え、3度にわたってこの地を旅したという。

加害国のドイツにも国を失う悲劇があったのかと現代史の複雑さを教えられる。

日本人にはなじみのない町を旅する。ヨーロッパの辺境をこれほど旅した人は少ないのではないか。その意味でも貴重な書。

(評論家 川本三郎)

[日本経済新聞朝刊2013年6月9日付]

消えた国 追われた人々―― 東プロシアの旅

著者:池内 紀
出版:みすず書房
価格:2,940円(税込み)

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