日仏首脳は「共通の目標」を描いたが
安倍晋三首相は来日したフランスのオランド大統領との首脳会談で、原子力や防衛装備などの分野で協力を深めることで合意した。両国が目指すべき共通の目標を共同声明で描き、5カ年の行動計画をまとめた意義は大きい。
日仏両国が建設的な外交関係を築くための出発点が、ようやく定まったといえる。今後の課題は、列挙された多くの目標を、どう実現していくかである。
これまでの日仏関係は、必ずしも親密だったとはいえない。今回のような包括的な共同文書を出すのは、実に17年ぶりだ。サルコジ前政権は、アジア地域の連携相手として日本より中国を重視する傾向が強く、日仏外交の歯車は今ひとつ、かみ合っていなかった。
行動計画は冒頭で、政治・安全保障の対話強化を目標に掲げた。東シナ海の緊張感が高まる中で、国際社会で発言力が強いフランスと、問題意識を共有する意味は極めて大きい。この目標の実現に向けて、まず外務・防衛担当閣僚級協議(2プラス2)の常設化を急ぐべきである。
経済分野では原子力での日仏企業の協力や、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の早期締結を掲げた。日本の輸出産業にとって、EUの市場開放は悲願である。貿易自由化の目標に向けて、オランド政権の姿勢が揺らがないことを期待する。
気になるのは大量の共同文書がやや総花的で、焦点が読みにくい点だ。記者会見での安倍首相とオランド大統領の発言も「普遍的価値の共有」「貿易障壁の撤廃」など抽象的な言葉が目立った。
安倍政権はEUの中核であるフランスと戦略的な連携を目指すべきだ。そのためには外交会談をきれい事に終わらせず、具体的案件に踏み込む必要がある。仏企業から中国への武器技術供与の中止やEPA交渉の妨げとなる仏自動車業界の保護主義の抑制などだ。
日仏外交を左右する最大の要素は、フランスの中国との距離感である。オランド大統領は前政権より親日的とされるが、政権が代わっても、フランスにとって中国の市場が日本より重要だという経済の現実は変わらない。
大統領は日中間の領土問題や、対中通商政策への明確な言及を避けた。中国への配慮だろう。日本が連携相手として欠かせない国であると認識させるのが、外交の知恵の絞りどころである。