ヴェルサイユの女たち アラン・バラトン著 歴代国王と女性たちの裏面史

2013/5/15付
保存
共有
印刷
その他

王とベッドを共にしようと、血道を上げる女性の群また群。母親たちの売り込み合戦も半端ではない。傍らでは自分の美徳は淫乱なことだと言ってのける女らが闊歩(かっぽ)する。こんなすごいシーンが毎日繰り広げられたのは、17・18世紀のヴェルサイユ宮殿である。

(園山千晶ほか訳、原書房・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(園山千晶ほか訳、原書房・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

三十年来庭師としてヴェルサイユで働いてきた著者によって、臆することなく語られるのは、ルイ十三世からルイ十六世までの、国王とその女たち(王妃・寵姫〈ちょうき〉)の奔放な愛欲物語である。中心にいるのは、いずれ劣らぬ美貌のモンテスパン夫人、マントノン夫人、ポンパドゥール夫人そして王妃マリー・アントワネットであるが、この物語が、あくまでヴェルサイユ宮殿とその庭の、建設の発端(じめじめした陰気な沼地だった)から見事に造成され豪華なバロック風宮殿が建てられるにいたる過程と絡めながら語られていくのがミソである。

宮廷の社交界を美しく彩る寵姫たちは、皆、優雅で上品な育ちの良いお嬢様かと思いきや、彼女らの多くが淫乱で娼婦(しょうふ)に近い成り上がり者だったと知れば、ガッカリするだろうか。いや嫉妬と憎悪が渦巻き、陰謀がめぐらされ、熾烈(しれつ)な競争がなされる宮廷で、王の寵愛獲得のために、必死で美貌を磨き色道を突きつめようとした彼女たちは、それはそれで時代のスター、輝かしい女性だったと言わねばなるまい。

絶対王政時代は、神のような国王を頂点とする身分制社会だが、どんなにしがない者でも、最上位にまで登りつめる色の道が開かれていたのは、救いといえば救いだろう。あまりに人間的な国王と寵姫の愛欲生活を活写した本書は、公的な歴史像に転換を迫るユニークな裏面史である。ベテラン庭師ならではの発想や発見も鏤(ちりば)められている。たとえば、庭のボスケ(茂み)の利用の仕方である。著者は自らの経験から、ルイ十四世が、いかに散歩の途中でボスケに隠れて、人混みを避けてことに及んだかを、ことこまかに再現してみせているのである。想像力も存分に働かせているようなので話半分に受け取っておくほうがよいが、それにしても、楽しい快著だ。

(東京大学教授 池上俊一)

[日本経済新聞朝刊2013年5月12日付]

ヴェルサイユの女たち: 愛と欲望の歴史

著者:アラン・バラトン
出版:原書房
価格:2,520円(税込み)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]